韓国の研究所が発表した常温超伝導体LK-99...検証委により「超伝導体ではない」との一次判定が下された話

先月22日のことです。韓国のある研究所が「常温常圧超伝導体LK-99」の開発に成功したとの論文(査読前論文)を発表しました。本当ならノーベル賞級の発見でしょう。
米国国立研究所の研究員はコンピュータシミュレーションを行い、その結果から「理論的に可能」と発表。中国の研究チームは実験室で「再現することに成功した」と動画を公開しました。
これをうけて関連企業の株は急騰し連日のストップ高、大変な騒ぎになっていました。

メディアに紹介されている情報によると、超電導とは磁石が作る磁場を物体の外に押し出す「マイスナー効果」という性質を持っていて、これにより磁石の上に「浮かぶ」ことが出来ます。また、物質の電気抵抗値が0に近いので電力を送電する際に損失が少なくなります。
「浮かぶ」で身近(?)なものだと超電導磁石を使ったリニアモーターカーがあります。リニアは磁気浮遊に超伝導体を使っています。ある金属物質が一定の温度以下になると電気抵抗が0になる現象を利用したものです。「常温超伝導体」はこの現象を常温下で起こせる物質、という意味かと思います。
SFの世界ではお馴染みの「夢の物質」らしいのですけど、SF脳ではない私には正直よく分からなかったので、もう少し詳しい情報が出そろうまでは、とスルーしていました。

で、そうこうしている間に急遽立ち上げられた検証委員会の検証により、これがどうやら「疑わしい」という話になってしまいました。もちろん株価は急落しています。

 



ファイナンシャルニュースの記事からです。

「3日天下」超伝導体株、検証委の反論で軒並み急落


4日、国内証券市場ではノーベル賞受賞級と評価されていた超伝導体開発の主張に暴騰した関連株が軒並み急落した。超伝導体専門家たちが国内のある研究所で常温超伝導体だと主張した物質「LK-99」に対して「超伝導体ではない」と結論を下したためだ。

(中略)

超伝導体テーマ株は先月22日、国内民間研究所であるクォンタム・エネルギー研究所が論文事前公開サイト「アーカイブ」を通じて「常温、常圧で超伝導性を持つ物質LK-99を世界で初めて作成した」と公開して浮上した。

特に、米ローレンスバークレー国立研究所(LBNL)研究員が同月31日(現地時間)、アーカイブに国内研究陣の発表を裏付ける内容を掲載し、さらに注目を集めた。

ただ、国内の専門家たちはこのような開発成果に対して交差検証に乗り出すとした。開発成功が事実である場合、全世界的に大きな影響を及ぼす可能性がるという判断からだ。

そんな中、国内超伝導体専門家らで構成された韓国超電導低温学会は前日、LK-99に対して「超伝導体の特徴であるマイスナー効果を見せなかった」として「超伝導体ではないと結論付けた」と明らかにした。

検証委は超電導現象に対して特定物質が電気抵抗が無くなり内部磁場を押し出すマイスナー効果を示すことを意味すると説明し、このように主張した。

投資業界関係者は「追加検証段階が残っているが、超伝導体では無いという結論が一時的に出てきて投資熱が冷めた」と判断した。彼は続けて「もしLK-99が本当の超伝導体だとしても、商用化時期は約束されなかっただろう」とし「超伝導体関連株が大部分で無条件投資状態を見せ、特に注意が要求される」と話した。



ファイナンシャルニュース「'3일 천하' 초전도체株, 검증위 반박에 동반 급락(「3日天下」超伝導体株、検証委の反論で軒並み急落)」より一部抜粋

↓で映像を見ることができます。


www.youtube.com

最初からちょっとおかしいです。物体の一部は常に下の磁石に接しています。プルプル揺れている(=静止していない)様子も確認できます。
映像がしばらく進むと別角度からも見られますが、やはり物体の一部は磁石に接地した状態です。
検証委が下した「超伝導体ではない」の判定は一次判定で引き続き追加検証が行われるとは言いますが、この映像を見る限り「うーん?」じゃないでしょうか?


クォンタム・エネルギー研究所のHPに掲載されているそうそうたる「協力会社(サムスンSDI、SKエンパルス、LGイノテックポスコサムスン電気、住友商事、韓国化学研究院、大韓化学会、高麗大学、漢陽大学、仁済大学など)」の一部は「協力して研究を進行した事実がない」と明らかにしています。HPに事実と異なる表記がされているわけです(現在、HPは「準備中」案内に切り替わっている)。ますます胡散臭いです。

 

 



もう1本関連記事を紹介します。こちらはNYTの記事を引用報道したもので、当初コンピュータシミュレーションにより「理論的に可能」としていた米国立研究所の研究員本人が一歩引いた姿勢を取ったということを伝えています。

こちらは聯合ニュースの記事からです。

NYT「多数の専門家、『常温超伝導体LK-99』に慎重な懐疑論


(前略)

NYTによると、米メリーランド大学凝集物理論センター(以下、センター)のサンカル・ダス・サルマ博士は「超伝導体に対して何らかの結論を下すのは早すぎる」としながらも「(論文で提示された)データは極度に推定的で確実ではない」と評価した。

サルマ博士はセンターのツィッターアカウントに載せた論評で「韓国科学者たちがLK-99が超伝導体に転換されたと明らかにした温度で電気抵抗が落ちたが『ゼロ』にはならなかった」とし「その物質(LK-99)の電気抵抗は純銅と他の良い伝導性金属に比べて約100倍高かった」と書いた。

また、LK-99の空中浮遊動画に対しては「黒鉛を含め、超伝導体ではない物質も同じ方式で部分的な浮揚が出来る」と書いた。

(中略)

高性能コンピュータを活用してLK-99の構造での電子移動経路などに対するシミュレーションを試みた結果、超伝導性が理論的に可能だという趣旨の出版前論文を通じてLK-99熱風に火をつけた張本人であるシネド・グリフィン米ローレンスバークレー国立研究所(LBNL)研究員もNYTとのインタビューで一歩引く姿勢を見せた。

グリフィン研究員は自身のLK-99関連論文上のシミュレーション結果が超伝導性を認めたわけではないとし、論文に示された電子構造関連計算結果が確定的なものでもないと述べた。

先だって彼はツィッターに自身の論文を紹介し、2016年にバラク・オバマ元大統領が行事会場でマイクを持ってわざと落とす場面を掲載した。

これは「聖杯発見」を宣言したかのように解釈され、ツィッターで急速に広がり、LK-99ブームを巻き起こした。

ヒューストンのライス大学物理学科ダグラス・ナテルソン教授はグリフィン研究員の論文に対して「本当に興味を感じなかった」と話した。

かれは「その論文が間違っているというわけではない」と前置きしながらも、LK-99に対して相次いで出ている各種出版前論文で特別な内容は無かったと付け加えた。

(後略)



「NYT "다수 전문가, '상온 초전도체 LK-99'에 조심스런 회의론"(NYT「多数の専門家、『常温超伝導体LK-99』に慎重な懐疑論」)」より一部抜粋

似たような特性を持った物質は既に発見されているものがあるのに、なぜ今回に限ってこんなに関心を集めているのか分からない…と、専門家たちは戸惑い気味のようです。しかも、査読前論文の内容なのに。
ただ、これにはやはり記事で指摘されているようにグリフィンさんがSNSで「火をつけた」感があります、本人が意図したかは別として。
実際、最初の論文がアーカイブにアップされたのは先月の22日ですが、韓国内で株価の急騰が起こったのは今月に入ってからです。1週間ほど空いています。その間を埋めたのが31日(現地時間)にアップされたグリフィンさんの論文とツィッター投稿(8月1日)でしょう。これが図らずも「専門家の太鼓判」と見なされてしまったんでしょうね。怖い話です。