医師協会が医大増員に反対するのは「混合診療禁止を撤回させるため」という話

韓国で起こっている「医療大乱」、医大定員の増員を巡って専攻医や研修医がボイコットを行っている件ですが、当の専攻医・研修医がどう考えているのかは分かりませんけれども、「断固対立」を主張している大韓医師協会などが反対する理由は、政府が進める「混合診療禁止」が主な原因、との指摘がありました。

混合診療とは、保険診療自由診療を混ぜたものです。
日本の場合、受ける治療に一つでも自由診療(健康保険適用外治療)が含まれる場合、全治療費が自己負担になります。本来は健康保険が適用されれば自己負担額3割で済む治療費も全額自己負担となります。

どうやら韓国では現状、この混合診療が認められているようなのです。そして社会保障費の負担削減のために政府は「混合診療禁止」の方向に舵を切ろうとしています。
しかし、そうなってしまうと医師にとってはマイナスです。今までは保険適用+自由診療(自己負担)だったものが、全額自己負担と言われれば「保険適用範囲内での治療」を選択する患者が増える可能性が高いからです。

そして混合診療禁止は医大定員増員と同じ「必須医療政策パッケージ」に含まれる政策です。本音ではお金儲けができなくなる混合診療禁止に反対なのですが、大声では言いにくいので医大増員に反対することで「必須医療政策パッケージを丸ごと潰そう」と、そういう思惑なのではないか、という話です。

 



マネートゥデイの記事からです。

医大増員賛成」ソウル医大教授「医師たちの反発、本当の理由は『これ』」


「大韓医師協会などの医療界では政府の必須医療政策パッケージの撤回を主張し、表向きには医学部の増員に対する準備が足りないと話していますが、本音は『政府が非給与診療に対する統制をするなんて嫌だ』であり、これが最も核心的な反対理由でしょう」

キム・ユン・ソウル大学医学部医療管理学教授は29日、ソウル汝矣島の国会議員会館第3セミナー室で開かれた国民健康保険労働組合政策討論会でこのように話した。 キム・ユン教授は代表的な医大増員「賛成派」だ。

この日の討論会は「国民医療費削減のために混合診療禁止はなぜ必要なのか」というテーマで行われた。混合診療禁止は政府が1日に発表した必須医療政策パッケージに含まれた方針だ。手技治療、白内障手術など過剰診療の懸念が大きい比重症非給与の場合、非給与と給与を混ぜて診療する混合診療を禁止するということだ。

これについて、一部の医療界では「医療民営化」と非難している。

(中略)

「危機の大韓民国医療体系:診断と克服戦略」というテーマで講演したキム·ユン教授は「今日のテーマである非給与*1を急増させた主犯は実損保険」と強調した。金融監督院によると、2022年基準の国内実損保険加入者数は3997万人で、大韓民国全体人口数の半分を超える。

キム・ユン教授は「2010年から2021年まで保障性を強化した時期に大学病院と総合病院の非給与は減った反面、医院はむしろ増えた」とし「非給与診療を病院と医院級で多くするので開院の収入は急速に上がり、大学教授と総合病院勤務医師の月給は比較的遅い速度で上がり、大学教授が辞表を出して町内の病院に集まっている」と指摘した。

続いて「それが今、救急救命室のたらい回し状況が起きて、小児青少年科を診療する総合病院がない理由」とし「現在のような状況が続けば、2030年の韓国のGDP対比医療費は16%で米国の次に医療費を多く使う国になるだろう」と強調した。キム・ユン教授は「このように浪費される医療費の中で誰も幸せではない」とし「不必要な手術を受けた患者が幸せであるか。病院維持のために患者に手術を説得した医師が幸せだろうか。そんな患者と医師を見ている看護師は幸せだろうか。 奇形的な医療システムだ」と述べた。

(後略)



マネートゥデイ「'의대 증원 찬성' 서울의대 교수 "의사들 반발 진짜 이유는 '이것'"(「医大増員賛成」ソウル医大教授「医師たちの反発、本当の理由は『これ』」)」より一部抜粋

「韓国人の年間放射線検査1人当たり6.8件…」の記事の中で少し触れましたが、結局は「お金」なんですね。
「医療民営化」と非難しているらしいですが、「拝金主義医療」は良いのか…。


*1:健康保険が適用されない自由診療