「韓国の対北強硬姿勢で笑う日本」という話

韓国メディアがロイターの報道を引用する形で、ユン政権が進める対北政策の強硬基調が「日本に再武装の根拠を与えている(とロイターの)分析が出た」「日本が笑っている」との記事を出しました。
これだけ見ると、まるでロイターが日本の再武装に警鐘鳴らす記事を載せたようにも受け取れますが、しかしこれはミスリードです。ロイターがそういう分析を出したのではなく、ロイターを引用した韓国メディアがそうした印象を与えようとしていると思われます。

 



ニュース1の記事からです。

「韓国、対北強硬基調に転換...再武装夢見る日本は笑う」ーロイター


韓国の新保守政権が北韓に取る強硬路線が、日本が再武装を正当化する根拠を提供しているという分析が出た。

キム・ドンヨプ慶南大学教授は8日、ロイター通信とのインタビューで「韓半島の緊張の高まりと北韓の行動、これに対する韓国の対応で日本は笑っている」と述べた。
キム教授な「北韓がまた別の核実験を準備しているという兆候と、韓米連合軍事演習の再開は日本が正常な軍事国家を追求することを正当化するのに役立つ」と付け加えた。

(中略)

これと関連して、レイフ=エリック・イーズリー梨花女子大教授はロイターとのインタビューで「北韓の挑発に対するユン・ソンニョル政府のより強力な対応は日本の支持を受けるだろう」とし「北韓金正恩政権を阻止し、中国による域内秩序の変化を防御するのがその名目になる得る」と評価した。

(中略)

韓国の体制変化を日本が歓迎しているだけに、韓日関係にも薫風が吹くだろうという観測が出ている。
コリー・ウォラス神奈川大学教授は「日本は以前閉じていたドアを開く機会を見ている。韓国との関係改善は錦上添花(Cherry on top)になるだろう」と展望した。

(中略)

ウォラス教授は「理論的に日本は中国牽制のために西南海圏に軍事資源と支出を割くことが出来る」としながらも、「日本にそのような水準の便宜を提供するためには数年間の肯定的な韓日関係が必要だ」と付け加えた。



ニュース1「"한국 대북 강경기조로 전환…재무장 꿈꾸는 일본은 웃는다"-로이터(「韓国、対北強硬基調に転換...再武装夢見る日本は笑う」ーロイター)」より一部抜粋

北朝鮮に対する強硬姿勢は日本を利するだけだ」「日本は軍国化を夢見ている」...この記事のタイトルだけ読むと、そんなニュアンスが言外から伝わってきませんか?
多分、ニュース1はそうした視点で書きたかったんだろうと思います。ですが元記事がそうではないので、なんかチグハグしています。

 

実際のロイターの原文記事を読むと英訳の都合かもしれませんが、インタビューを受けたキムさんの発言は以下のようになっています。

The escalation of tension on the Korean peninsula, North Korea's actions and our response to that as we saw has to be something that puts a smile on Japan's face,
朝鮮半島の緊張の高まり、北朝鮮の行動と我々の対応は、(さきほど)触れたように、日本が笑顔になるようなものでなければなりません)

どうでしょう?どちらかというと「日本と足並み揃えるべきだ」、そうした肯定的なニュアンスに私には読めました。

そしてロイターの方はこの後、日本が防衛費をGDPの1%以内に抑えるよう固執してきたのは「軍事主義が復活するのではないかという懸念に対抗してきた」ためとした上で、日本の方針の転換は中国に対抗するために米国が歓迎していることに触れています。
さらに、こうした流れの中で韓国の新政府の対北政策の転換は地域秩序を守るために日本から支持されるであろうこと、安全保障というチャンネルを通じての日韓関係改善の可能性などの展望の話に繋がっていきます。

つまり、ロイターの記事は日本の再武装(防衛費増額)は「地域情勢の変化に伴う安全保障意識の変化」というある意味当然の流れとして報じられているに過ぎず(そして米国は歓迎、韓国の新政権とも利害が一致)、「軍事国家を夢見る日本」というニュース1が描こうとする日本像とはズレがあることが分かります。

ニュース1は puts a smile on Japan's face(日本を笑顔にする)に拒否反応を示したのかもしれませんね。日本が笑顔になる=日本が喜ぶことなんて間違っている、と。