付加価値が理解できない韓国さんの話

最近、韓国で「직지(チクチ;直指)」という小説が発売されたそうです。
「直指」とは「直指心体要節」の通称で、14世紀の高麗の禅僧・白雲和尚景閑が書いた仏教の教本で、本の末尾に「在淸州興德寺用金屬活字印製而成」と記されており、金属活字で印刷された世界最古の書籍とされています。
金属活字自体は現存しておらず、「直指心体要節」も金属活字本として現存しているのは下巻のみ*1。フランス国立図書館に所蔵されています。


小説「直指」は世界最古とされる金属活字本「直指」とグーテンベルクの金属活字をめぐるミステリー小説だそうです。
グーテンベルクの金属活字が欧州の発明品でなく直指の影響を受けて作られたという事実を明らかにする過程を興味深く扱っている」(中央日報記事より)そうです。


先に断っておきますが「直指」の金属活字の影響を受けてグーテンベルクの金属活字が作られたなどという事実は確認されていません。
作者さんは「合理的虚構」という言葉を使っているので、一応「作り話」という体にはなっています。せいぜい韓国版ダン・ブラウンでも気取っている程度です。
が、記事の書き方が誤解を招きかねない書き方です。


活版印刷自体は、欧州に先んじて中国で行われていました。
欧州で初期の頃に作られていた木版字は中国のものとほぼ同じでしたので中国からの影響があったことは確かなのでしょうが、金属活版が朝鮮半島からの影響というのは、ちょっと話が飛躍しすぎです。


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金属活字。これをチマチマ並べる。
右の画像は1985年に作成された『銀河鉄道の夜』の劇場アニメより。
主人公のジョバンニが活版印刷序でバイトをしているシーン。


それはともかくとして、中央日報によるインタビュー記事で、作者のキム氏は「直指があまりにも世の中に埋もれていたと感じた」と述べています。
確かにグーテンベルクの金属活字に比べるとマイナーです。


でもそれは当然でしょう。
「直指」以降、高麗では金属活字は埋もれてしまい定着しませんでした。本格化したのは李氏朝鮮時代に入ってからです。

一方で、欧州ではグーテンベルクの金属活字以降、「パンチ法」という標準技術による金属活字が急速に広がり、出版の形を大きく変えました。
グーテンベルクは金属活字だけでなく、ワインの絞り機にヒントを得た印刷機の開発、油性インクの採用など、後の印刷物の在り方に大きく関わりました。
書籍やニュースの流通速度を劇的に早めたことはルネサンスの拡大に繋がり、ギリシアやローマの古典書が大量に印刷され普及したことにより、後の宗教改革に繋がったとも言われています。


影響力として見た時に天と地、月とスッポンくらいあるわけです。
グーテンベルクの金属活字」は、それがもたらしたありとあらゆる影響を付加価値として内包しており、それごと評価されているわけです。

14世紀の高麗に金属活字の技術があったことは確かなのでしょうし、それはそれで素晴らしい技術です。
でもそれが普及するだけの土台を、高麗は持たなかったのです。


似たような話はいくらでもあると思うのですが、この記事を読んで「韓国らしいな」と感じたのがこの付加価値を理解しないところです。

こうした部分が

  1. 完成品至上主義 = 内部の部品や特許技術に無関心で、出来上がった目に見える完成品のみに価値の重きを置く。
  2. 外見至上主義 = 整形大国。目に見える「美」に重きを置く。
  3. 名分至上主義 = 表面的な結果に拘る。

このような特徴に現れているように思います。


起源(オリジナル)を追求するのは、一見「本質」を重視しているように見えて「世界初」とか「最古」といった表面的なものしか見ていないように感じられます。


*1:白雲和尚の弟子が金属活字本を底本に作成した木版本も現存している。