北朝鮮に韓国の裁判権が行使できる、という話

韓国の憲法では北朝鮮を国家と認めていません。憲法の第三条で「大韓民国の領土は韓半島とその付随島嶼とする。」となっています。ここで言う「韓半島」とは、南側だけを指すのではなく、朝鮮半島全域を意味します。
つまり、北朝鮮の支配地域も韓国の領土としていることになります。


司法の場でも、90年代半ばに大法院(最高裁判所)が「北朝鮮国籍者であっても憲法上、北朝鮮は韓国の領土に属する韓半島の一部であり、大韓民国の主権が及ぶとみることができる」とし、脱北者に対し「韓国国民としての地位を持つ」という判断を下したことがあります。

そして今回も 北朝鮮に韓国の裁判権が行使できる という判断が下され、朝鮮戦争当時、北の捕虜となり強制労働に従事させられたとする損害賠償請求訴訟で原告勝訴となりました。


ニューシスの記事からです。

国軍捕虜、キム・ジョンウンへの損害賠償初勝利…「お金を受け取れる」(総合)



(前略)

ソウル中央地裁民事47単独キム・ヨンア判事は7日、国軍捕虜出身のハン某(86)さんと、ノ某さんが北韓とキム委員長を相手に起こした損害賠償請求訴訟で原告勝訴判決を出した。
キム判事は、北韓とキム委員長が共にハンさんとノさんに各2100万ウォン*1ずつ支払うよう判断した。また「原告の請求を認容する趣旨」と付け加えた。勝訴判決が出ると法廷では拍手が起こった。

(中略)

ハンさんなどの代理人は「今後も北韓が私たちの法廷で被告になることがあるということを明らかにした判決」とし「今後も北韓とキム委員長が犯した不法行為について私たちの法廷で直接民事責任を問うことが出来る道を開いてくれた指針となる判決」と評価した。

続いて「北韓は私たちの憲法下では国家ではないが、北韓という一つの組織であり、法的性格は法人社団であるため、私たちの裁判所が裁判権を行使することができるとした」として「受領人であるキム委員長についても同様に支払わせるようにしたことの意味が大きい」と述べた。

北韓とキム委員長を相手に損害賠償額を執行する過程について、代理人は裁判所に供託されている北韓名義の20億ウォン*2の債権を回収して執行する計画と明らかにした。

(後略)

ニューシス「국군포로들, 김정은 손배소 첫 승소…"돈 받을수 있다"(종합)(国軍捕虜、キム・ジョンウンへの損害賠償初勝利…「お金を受け取れる」(総合))」より一部抜粋


ムン大統領は今年の新年辞で「平和経済は分断がもはや平和と繁栄の障害にならない時代を作り、南北の両方が周辺国と共に繁栄するだろう」という趣旨の発言をし、まるで北と南を独立した「国家」として見ているかのような表現をしていました。
最終的には改憲で第三条を修正したいのかもしれません。(邪推でしょうか?)


裁判所に供託されていた北の資金は著作権料だそうです。なんの著作権料なのか、ちょっと分かりませんでした。
2005年に南北経済文化協力財団を通じて結ばれた協定により、実際に2008年に南から北へ著作権料が支払われているようです。

ところが、2008年に金剛山で射殺事件*3が起こり対北送金がストップすると、以降の著作権料は受領者を北朝鮮として裁判所にプールされていました。


今回の判決について北朝鮮は今のところコレといった反応を示していないようです。


*1:約186万円

*2:約1億7,700万円

*3:2008年に金剛山を訪れていた韓国国籍の女性観光客が朝鮮人民軍により射殺された事件。
北朝鮮側は女性の軍事施設への侵犯を主張しているが、真相調査は行われてないため不明。