日米安保において宇宙空間も適用圏であることが確認されました。
日本の宇宙開発は1970年の国産の固体燃料ロケットによる人工衛星打ち上げに始まりますが、基本的に米国の影響下でした。逆に言うと、宇宙産業における日米の関係史の長さを表すとも言えますか。
日本が完全自主開発の液体燃料ロケットH-Ⅱの開発を決めたのは1984年です。開発開始は1986年です。初打ち上げは1994年です。斯様に開発にはコスト(お金+時間)が掛かります。
昨年末、韓国政府は宇宙開発基本計画をまとめました。2027までに宇宙開発投資予算を21年の7300億ウォン(約760億円)から2倍の1兆5000億ウォン(約1560億円)に増やし、2030年に無人輸送能力を、2045年までに有人輸送能力を確保するというものです。
ちなみに、令和4年度の日本の宇宙関係予算(全省庁)は5219億円(当初予算+補正予算)です。
もう少し細かく見ると、長期目標として2032年に月着陸、2045年に火星着陸を主目標として、無人探査の独自能力確保し、大規模資源を必要とする有人探査・宇宙ステーション・探査基地などは国際協力ミッションを通じて行うとしています。
随分思い切った計画ですね。
しかし、宇宙空間における「安保」についてあまり触れられていません。全く触れられていないわけではないのですが、開発や産業に重きを置いているような印象を受けます。
それが原因かどうかは分かりませんけれど、先日の日米2+2において宇宙空間が安保適用圏内であることを確認したとともに、月軌道宇宙ステーション建設・運営など公式に日米が協力体制を敷いていくのに対して、韓国は目に見える形での協力関係というのがありません。
マネートゥデイの記事からです。
米国の支援で月面着陸を控えた日本、韓国は「遅々として進まず」
(前略)
米国航空宇宙局(NASA)は14日(現地時間)、トニー・ブリンケン米国務長官と日本の林芳正外相が最近、宇宙探査協力拡大を骨子とした合意書に署名したと明らかにした。
(中略)
これに先立ち両国は、昨年5月の米日首脳会談で「平和的目的のための宇宙探査と月と天体活用に対する協力」昨年9月にはカメラ・ハリス米副大統領が東京を訪問し、商業、民間、安保など多様な宇宙協力を強化することにした。昨年11月、NASAと日本文部科学省は地球から約38万km離れた月軌道に有人宇宙ステーション「ゲートウェイ」を共に建設し運営することで追加合意した。
今回の署名はこのような協力議題を支障なく履行し、月を含む深宇宙探査協力を増やすために行われた。広範囲な宇宙空間で輸送、安全、両国の任務を保障するなどの運営計画が盛り込まれた。単純な研究拡大を超えて宇宙を国家安保と経済・産業に多大な影響を及ぼすと見ているのだ。
(中略)
日本が科学・外交・安保チャンネルを全面稼働し米国と宇宙分野で全方位協力を引き出しているが、韓国は宇宙強国とこれといった協力進展がない。韓国も昨年5月、ユン・ソンニョル大統領が米国との首脳会談で宇宙探査の共同研究に乗り出すことで意見が一致した。
しかし当時の首脳会談で具体的な協約は無かった。現在、国家的宇宙任務も科学技術情報通信部と外交部、国防部、国土交通部などに分かれている。ユン・ソンニョル政府に入ってこのような問題を解決するために国家宇宙委員会を大統領機構に格上げし、宇宙航空庁を年内に新設することにしたが、憂慮は依然として残っている。
(中略)
一方、日本は2020年代後半の月着陸を目標に宇宙飛行の育成はもちろん、探査研究を続けている。現在まで日本航空宇宙開発機構(JAXA)と民間などから排出された宇宙飛行士は15人以上だ。特に若田光一、星出彰彦などが国際宇宙ステーション(ISS)の船長を務めるほど米国など宇宙強国に強い信頼を得ている。
(中略)
匿名を要求したKAIST(韓国科学技術院)教授は「日本は米国と欧州のように長期的ビジョンと哲学の上で宇宙計画を用意する」として「韓国が今から米国・日本などと協力議題を導き出せなければ宇宙庁が新設されても今のように全ての宇宙政策が漂流する可能性が高い」と指摘した。
それとともに「宇宙庁新設前でも国家委員会や科学技術情報通信部で宇宙の重要性を科学技術、安保、経済、産業などに各々分けて戦略を用意しなければならない」として「さもなければ日本ももちろん、宇宙強国との格差はより一層広がるだろう」と診断した。
マネートゥデイ「미국 도움으로 달 착륙 앞둔 일본, 한국은 '지지부진'(米国の支援で月面着陸を控えた日本、韓国は「遅々として進まず」)」より一部抜粋
去年の5月と言えば、ユンさんが就任した直後に米韓・日米の順番で首脳会談が開かれた時です。米大統領が日本より先に韓国首脳と会うのは初めて、ということで「順番の意味は?」について(主に韓国内で)大騒ぎしていた頃です。覚えてますでしょうか?
この時、発表では米国主導のアルテミス計画や宇宙探査共同研究を進めて韓国型衛星航法システムを開発するための支援協力を確認しています。
しかし実態は伴っていません。中央日報が7月に報じた内容によると、米国側は国際武器取引規則の改定を議題に取り上げていたそうです。この規定により、韓国は米国の許可なく米国技術や部品を使った人工衛星を韓国のロケットで打ち上げることはできません。「協力」どころか「規制」されているとも受け取れます。(これは日本も同じ状況でした)
昨年6月に発射した液体燃料ロケットの「ヌリ号(「ヌリ」は「この世」とか「世界」の意味)」は韓国独自の開発ですが、担当技術者が「ロシアの科学者が捨てたゴミまで漁った」と、開発秘話を披露しています。つまり米国由来の技術ではなくロシア由来の技術であるということで、ここからも米国からの技術供与が無かったことが伺えます。
ただ、一応フォローしておくと昨年末に月衛星軌道に乗った探査船「タヌリ」の月衛星軌道への移転方式はNASAからの技術供与があったはずです。WSB(弱安定性境界軌道)を利用した方式で、燃料消費は抑えられるものの比較的新しい技術(確か30年くらい?)であったため宇宙開発新興国である韓国には難易度が高いと尻込みしていたところを、アルテミス計画協力の一環としてサポートを受けていたはずです。
余談ですけれど、宇宙飛行士の最終面接は同じ宇宙飛行士によって行われると聞いたことがあります。宇宙飛行士はある種、極限状態で任務にあたることになります。一歩間違えれば命に関わります。そのため宇宙飛行士自身に「この人と一緒に仕事がしたいか?」で選ばせる、と。
科学や技術を精緻に積み重ねたひとつの到達点である宇宙開発分野で最後に重視されるのがデータで測れない「人間力」というところが面白いです。