「上低下高」ではなく「L字型不況」の憂慮の話

韓国政府と韓国銀行はずっと「上低下高」と言ってきていました。それは当初、いわゆる「V字回復」をイメージしていたと思います。
それが第3四半期に入っても貿易収支は黒字転換したものの半導体は相変わらずの不振が続き回復傾向が限定的であったことでいつの間にか「U字回復」のイメージ図に差し替えられた気がします。
そして8月末とか9月頭あたりから、いつくかのメディアで「L字型不況」を心配する声が上がり始めました。
「U字回復」なら、もう底を打って緩やかに回復傾向に乗っているはずの時期なのに(主に半導体の)横ばいが続いているからでしょう。
最初に「L字型」の話が出たときはメディアの主流意見という感じではなかったのですけど、ドル高レート為替レート、高金利、高物価の傾向がこのまましばらく続くだろうとの予想の元、現実味を帯びてきた気がします。なぜならこの「3高」、1年前と同じだからです。環境が変わらないのに経済状況だけ勝手に回復するわけないですよね。

 



国民日報の記事からです。

1年ぶりに3高の脅威...韓国経済「上低下高」抑える


輸出不振の泥沼に陥った韓国経済の前に「3高(高為替レート・高金利・高物価)」暗雲が再び押し寄せている。

(中略)

25日、韓国石油公社の石油価格情報システム(オフィネット)によると、この日、全国で取引されたガソリン平均価格(1リットルあたり1788ウォン)は1800ウォン突破を目前に控えている。7月までは1リットルあたり平均1585.5ウォンだったガソリン価格が13%近く急騰しているのだ。

(中略)

高騰する原油価格は物価上昇に直結する公算が大きい。先月の物価上昇幅(1.1%ポイント、7月2.3%→8月3.4%)の半分以上が急騰した原油価格が原因だった。最近、国際原油価格の上昇傾向がさらに激しくなっている点を勘案すれば高金利基調維持と見られる物価は最大の脅威要因になりかねない。

物価が上がれば負担を感じる世帯は財布の紐を締め、消費不振は民間企業の生産・投資削減に繋がる。ソン・テユン延世大学経済学科教授は「産業生産と投資、消費が一度に減るトリプル不振がすでに7月に表れた」として「国際原油価格にともなう物価上昇圧は、今後内需沈滞に繋がる可能性が高い」と話した。

ウォン安ドル高も韓国経済に大きな負担となっている。最近のウォン・ドル為替レートは1330ウォン台で1400ウォンをはるかに上回った昨年より低いが依然として高い水準だ。韓国銀行の経済統計システムを見ると、2000年1月から先月までの284ヵ月間、ウォン・ドル為替レートが1300ウォンを超えたのは23ヵ月に過ぎない。そのうちの8ヵ月が最近1年に集中している。ウォン安・ドル高は輸入物価と生産物価を順に刺激し、消費者物価を引き上げる。

(中略)

米国の緊縮的な通貨政策はこれに油を注ぐ要因だ。米連邦準備制度理事会Fed)が来年まで年5%の基準金利維持方針を示唆したことで浮き彫りになった「高金利長期化」は、ドル高現象をさらに煽る恐れがあるということだ。その上、韓国銀行が連準銀より先に金利を下げにくくなっただけに、脆弱借主と不動産プロジェクトファイナンス(PF)不良問題に対する対応余力も落ちざるを得ない。

(中略)

中国経済沈滞憂慮で輸出もやはり不振から抜け出す兆しが見えない状況で3高脅威再浮上により政府の「上低下高(上半期低調、下半期回復)」のようにU字型回復が現れる可能性は消えている。代わりにその場を満たすのは「L字型不況」憂慮だ。

一部では低成長が韓国経済の「ニューノーマル(新基準)」に固まっているというグレー評価まで出た。実際、バークレイズ、シティ、ゴールドマンサックス、JPモルガンなど8つの主要外資投資銀行(IB)は今年の韓国経済成長率を1.1%、来年は1.9%と見通した。

(中略)

ソン教授は「政府統制外にあるエネルギー費用上昇が危機を招いただけに労働・規制など他の側面で企業負担を減らさなければならず、物価上昇圧力を抑えるためには斬新的な金利引き上げも考慮してみる必要がある」と話した。

(後略)



国民日報「1년 만에 돌아온 3고 위협...한국경제 '상저하고' 누른다(1年ぶりに3高の脅威...韓国経済「上低下高」抑える)」より一部抜粋

過去にも何度が書いていますが、一応確認です。
米国の政策金利が高いとなぜドル高傾向が持続するのかというと、金利が高い方に資金が集まりやすいからです。金利が高いとお金を借りるのは不利になりますけど、お金を貸す方は有利になりますよね、そのため投資資金が集まるんです。
そのときに、韓国に投資されていた資金が回収され米国に流れるという現象も起こります(キャピタルフライト)。その際、韓国投資のために韓国ウォンになっていた資金が米ドルに交換されます。大量のウォンが売られ大量のドルが買われる現象が起こります。
すごくザックリ言っちゃうと、それがウォン安ドル高を加速させるとされています。
韓国が米国より先に政策金利を「下げにくくなった」というのも同じ理屈で、米国と韓国の政策金利差が開けばその分、ドル有利が高まるからです。今現在、韓国と米国の金利差は2.0%です。


政策金利は上げたくても上げられないのが現状でしょう。1400兆ウォンの家計負債のおよそ7割が変動金利だとされていますから。
1400兆ウォンの家計負債は、将来の収益を「前借」して経済成長してきた分なんですよね。将来的に収益がそれに追いついて返せれば何の問題も無かったんですが...。
前にも書きましたけれど、韓国では不動産投資のための住宅ローンは元本償還という発想が希薄なようです。3年間利子のみで元本償還が猶予されるローンが一般的で、その間に利子以上に不動産価値が上がれば売ります。そして売れたお金を別の物件に再投資します。それを繰り返せば資産は増えますが負債は減りません。
一見、この方法は好循環を生むように見えるでしょうけど、利確されてないんですよね。不動産価格が上がらなくなったら一気にバーストします。