貿易依存や為替や株価についての話は前回、
前々回でサラッと見てきました。
今回は所得格差について見てみます。
サムスンが順調でも不調でも、国民総所得が指標の上では好調でも所得格差が広がっている実態についてです。
財閥依存と言われる経済構造
GDPに占める割合を見ても意味はない
韓国には財閥企業があります。
よく「○大財閥がGDPの○%を稼ぎ出す」というような記事を見かけますが、この手の数字の比較に意味はありません。
なぜなら、GDP(国内総生産)と企業の売上や営業利益などの企業会計とは計数が一致していないからです。
そもそもGDPは国内の数字で、その国の企業や国民が国外で生産した付加価値は数値として反映されていません。
更に、製品やサービスを海外に輸出した際に発生する損失も加味されていません。
一方で、企業の財務諸表から読み取れる売上や営業利益は連結決済(海外を含めたグループ全体の収益)であり、設備投資や減益も計上されています。
比較することに意味はありません。
サムスン一人勝ちの意味
では、財閥企業依存が意味するところは何かと言うと、少数の財閥企業がいくら稼いでも庶民の所得水準はあがらない、ということです。
□ 2018年 韓国企業営業利益ランキング
順位 | 企業名 | 営業利益 |
---|---|---|
1 | サムスン電子 | 62兆6474億ウォン |
2 | SK ハイニックス | 22兆6474億ウォン |
3 | SK | 6兆2301億ウォン |
4 | POSCO | 5兆2301億ウォン |
5 | LG電子 | 3兆1033億ウォン |
20位までデータがありますが、5位まで見れば十分でしょう。
サムスンは確かに化物企業です。
ですが、2位のSKハイニックスでいきなり営業利益が1/3に落ち込みます。
3位のSKに至っては、サムスンの1/10しか稼げていません。
2位から20位までの企業の営業利益を全部合算してようやくサムスンより多くなります。(2位のSKハイニックスを抜くと足りません)
同じデータを日本企業で見てみます。
□2018年 日本企業営業利益ランキング
順位 | 企業名 | 営業利益 |
---|---|---|
1 | トヨタ自動車 | 2兆3998億円 |
2 | ソフトバンクグループ | 1兆3038億円 |
3 | NTTドコモ | 9732億円 |
4 | KDDI | 9627億円 |
5 | 本田技研工業 | 8335億円 |
5位までいってトップのトヨタの1/3規模です。
1/10規模だと、30位圏内の企業は全て入っています。
30位の武田薬品工業(2417億円)と31位のファーストリテイリング(2362億円)あたりからようやくトヨタの1/10を割り込んできます。
この比較から分かることは、韓国企業にはずば抜けたトップ企業がいるだけということです。
そしてそのずば抜けたトップ企業も、韓国経済に寄与していると言えるのかどうかは微妙なところです。
以前の貿易依存率の話でも触れましたが、韓国企業は「部材」の多くを輸入に頼っています。
その筆頭が収益の7割を半導体で稼ぎ出すサムスンなわけです。
これはサムスンが稼いでも、国内の下請け業者に還元されないことを意味します。
仮に下請け業者に還元されなくとも、サムスン自体が稼いだ利益を従業員に還元できていれば問題ないはずです。
2017年時点で、サムスンは全世界80ヵ国に進出しています。
従業員数(正社員)は308,745人です。
このうち韓国国内の従業員は93,000人ほどです。
2017年の韓国の人口は5177万人です。
韓国の営業利益ランキング3位〜20位までを足した企業より単独で稼ぐ企業の従業員数が人口比わずか0.17% です。
まさに選ばれたエリートですね。
※営業利益は人件費を引いた金額ですので、付加価値がどの程度従業員に分配されているかを見るには労働分配率を計算しないといけないのですが、大変なので省きます。
極端な所得格差
この極端な経済構造の結果、なにが起こっているのかが下の図です。
縦の一番左端の項目の「income」は所得の意味です。
「Amount」は金額で、「Percent change」は前年同期からの変動率を表します。
注目していただきたいのは「Lowest quintile」の「Percent change」が -7.0 であることと、一番右端の「Highest quintile」の「Percent change」が 8.8 であることです。
この意味は最も所得の低い層は昨年の同時期に比べ 7% 減収なのに対し、最も所得の多い層は 8.8% 増収となっているということです。
富めるものはより富み、貧しいものはより貧しくなる極端な二極化が進んでいることが分かります。
上に示したのは2018年第3四半期(7-10月のデータ)です。その前の第2四半期(4-6月データ)でも同じ傾向が現れています。
このときに出た報道によると低所得層の減収幅は2003年以降、最大の減少幅となっています。
更に、今期のデータで見ると「Employee income(給与所得)」に至っては 22.6% も落ち込んでいます。
2018年のサムスンの営業利益は、半導体の減速が響いたとは言え過去最大を更新し、昨年比9.8%増となっています。
政府としても所得拡大主導の経済政策で最低賃金の引き上げを強行しています。
にも関わらず、一般庶民の所得には反映されないどころか、逆のことが起きています。
サムスンの業績は大きくなっていますが、実際の韓国経済というパイの大きさは然程変わっていないのです。
にも関わらず、分配するパイのピースを大きくしようとしているのですから、取り分にありつけなくなる人たちが増えるのは当たり前です。
低所得者の増加は、内需の縮小を招き、海外市場への依存が大きくなります。
更には社会福祉費も圧迫します。
企業に一定の内部留保があり、それを放出することで所得拡大主導の好循環が作り出せるまで持ち堪えられれば、あるいは有効な戦略だったかもしれません。
ですが、上で見たように韓国企業はサムスンとSKハイニックスを除いてしまえば、現在の急激な最低賃金引き上げに耐えられるような企業はありません。
最も体力のない中小企業から順に人員を整理したり倒産したりしています。
そのシワ寄せが低所得者の減収へと繋がっていることを、このデータは示しています。