医療人材の拡大に韓国の医師だけが反対する理由の話

19日に韓国人の年間放射線検査数についての記事を紹介しましたが、その中で現在、韓国で起こっている医師の集団行動(スト・集団辞職)について少し触れました。
また、昨日はこうした医師(主に専攻医)の集団行動が「法的処罰の対象になるかもしれない」と検討されている動きについて紹介しました。
今日はその関連記事をお伝えします。

「海外(主に先進国)では高齢化に向けて医師を増員する政策が取られているが、集団行動で医療人材の拡大を妨げているのは韓国だけだ」という内容です。
記事では、海外で医療関係者による集団行動が行われるのは主に賃金アップを要求してものだが、韓国の場合は「医師不足による患者の被害を前提に金をさらに稼ぐ」というものであるため全く異なるケース、という医学部教授の指摘が紹介されています。

 



毎日経済の記事からです。

「韓国の医師だけなぜなのか」...海外先進国の医学部増員のときはどうだったのか


政府の医学部増員について、大学病院の専攻医らが辞表提出などで集団行動を断行している中、「医師らが集団行動で医療人材の拡大を妨げている国は韓国だけ」という指摘が殺到している。

全世界的に他の国々は高齢化に備えて医師数を増やしており、医大定員拡大に反発してストライキに出るケースが見当たらないという説明だ。

チョン・ヒョンソン延世大学保健行政学科教授は18日「フランスなど各国の医師ストライキに対する研究を進めたが、『医師増員』がストライキの理由であるケースは見たことがない」とし「日本のような国は医師協会が医大増員にむしろ賛成したケース」と説明した。

(中略)

キム・ユン・ソウル大学医学部教授もやはり「各国の制度は少しずつ違うが、海外で医師が政府に反発して集団行動をした事例は、賃金引き上げのような理由のもの」と話した。

彼は「現在、韓国の医師たちの集団行動は、海外事例のように単純に賃金を上げてくれというのではなく、医師不足による患者の被害を前提に金をさらに稼ぐということ」とし「完全に異なる事例」と付け加えた。

保健福祉部が日本厚生労働省・医師協会と面談した結果を見ると、日本は地域医療需要を推進、「地域枠」を適用して過去10年間に医師人員を拡大し、4万3000人程度の医師が増えたが、集団行動のような医師団体の反発は無かった。

日本医師協会では「医学部定員の拡大を推進した当時、医師数不足に対する社会的共感があったため協会でも反対は無く、地域の枠組みで選抜したことも医師を説得するのに役立った」と述べた。

(中略)

韓国より人口がやや多いドイツ(8317万人)の場合、公立医科大学の総定員が9000人を超えるが、これを1万5000人程度に増やすことにした。

韓国と人口が近い英国(6708万人)は、2020年に医学部42ヵ所で計8639人を選んだ。これは2031年までに1万5000人まで増える。

そうなれば、ドイツと英国の医学部の入学定員はそれぞれ韓国の5倍に達することになる。

フランス、日本なども高齢化傾向に合わせて医学部の定員を持続的に増やしている。



毎日経済「“한국 의사들만 왜 이래”…해외 선진국, 의대 증원때 어땠나 보니(「韓国の医師だけなぜなのか」...海外先進国の医学部増員のときはどうだったのか)」より一部抜粋

19日の記事でも触れましたが、お金を稼ぐ云々…といのは、診療報酬とい1つのパイを分け合っているために「医師の数(分子)が増えると自身の取り分が減る」と考えるということです。
そのため、自分たちの金銭的利益を守るために医療人材の拡大を妨げているということになります。


また、こうした集団行動が起こりやすい素地として、中央日報が専攻医の割合について報じていました。
専攻医とは、研修医と専門医の中間に位置します。医師免許を取得した後の約2年間は臨床研修医として内科や外科など、様々な診療科をローテートしながら研修を受けます。
その後、自身の専門領域を決め専攻医になります。指導医に付いて研修プログラムを受け、合格すれば晴れて「専門医」です。

この専攻医の割合が、韓国は諸外国に比べて極端に多いらしく、日本の東京大学医学部付属病院の場合、専攻医の割合が10.2%、米国の病院も10.9%程度なのに対し、韓国のソウル大学病院は46.2%にもなるそうです。

「お金」以外にも増員に反対する理由がありそうですね。
中央日報の記事は、専攻医の人数が多いからストが起こると「人手が減る」=「医療大乱が起こる」という視点で報じていますが、私はこれを読んで専攻医の人数の多さがこそが「医療人材の拡大に反対する原因」ではないかと思いました。

専攻医がこれだけ多いということは、つまり「専門医」への門が狭いということでもあります。医大生が増えるということは競争相手が増えるということ。そら反対もするでしょう。

この原因は「指導医(専門医)」と「専攻医」が「師匠」と「弟子」の関係になるからじゃないでしょうか?「弟子」が多いほど「師匠」は便利(雑用係や弟子の数=自分の権威とか)でしょうから、手放さないとか、そんな構造的問題があるのかもしれません。