韓国の「不動産不敗神話」について、なぜ住宅価格は「上がるもの」と堅く信じられているかの話

韓国の家計負債が「爆発」しないのはなぜか、というコラムがあったので紹介します。
冒頭、著者は「韓国の公論はダイナミックでスピード感はあるが、代案などは出てこない。この状況を変えて代案論を主流化したい」という趣旨のことを書いています。
確かに、韓国メディアの文はいつも尻切れトンボな状態になっているものが多く、ガッカリさせられることもよくあります。なので、今回はちょっと期待して読んでみたのですが...うーん。
一応、最後の方に「提言」のようなものが書かれていますが、要約すると「DSRを管理して家計負債を減らせ」です。ちょっと残念。

ただ、韓国でなぜ「住宅価格は上がるもの(不動産不敗神話)」と堅く信じられているのかについては、よく分かりました。

 



オーマイニュースの記事からです。

韓国の家計負債はなぜ爆発しそうにならないのか?


(前略)

韓国の家計負債は長い間、急速な増加傾向を続け現在世界的に高い水準を示している。2023年の第2四半期末基準の韓国のGDP対比家計負債比率は101.7%で、スイス(126%)、オーストラリア(111.1%)、カナダ(103.2%)に次いで4番目に高い。さらに、海外には無い韓国だけのチョンセ制度のチョンセ保証金を家計負債に含めると、韓国のGDP対比家計負債比率は2021年末基準で156.8%に高まり、スイス(131.6%)を抜いて圧倒的な世界1位だ。

(中略)

不動産など、資産価格の高評価と過度な負債累積が伴う現象を「金融不均衡」というが、現在韓国の金融は深刻な不均衡状態にある。

(中略)

資産市場にバブルが生じた場合、危機を経て解消されるのは自然な経済の循環だ。長期的な観点からは経済構造を健全にする長所でもある。ところが、韓国経済は独特にも危機を長期間経ないまま構造的問題を育ててきたし、その帰結が今日の家計負債悪化および金融不均衡として現れている。

では、このような構造はどのように固着化したのだろうか?この20年余りの間、韓国経済が金融危機を経ずに家計負債の拡大を容認できた要因は何だろうか?

(中略)

ここで分析の出発点にするに値する明らかな事実の一つは、韓国国民の大部分が不動産投資こそ収益性が高く、長い目で見て安全だという認識を持っているということだ。米国など海外の主要国の場合は家計資産において金融資産が占める割合が最も大きいのに比べ、韓国では不動産の割合が圧倒的な事実から端的に分かる。

どれほど不動産投資に対する信頼が強ければ「不動産不敗神話」という表現がよく使われるだろうか?「ヨンクル」してマンションを買ったという青年も多く、不動産投資に対する期待は老若男女を問わないことが分かる。不動産投資の成功的な完成版といえる「建物主」は、小学生たちの将来なりたい職業上位に選ばれたりもする。

(中略)

通貨危機以後、歴代政府は負債主導の不動産市場浮揚政策をよく用いた。住宅を購入する人に融資を容易にし、建設景気を刺激するのが景気浮揚効果が大きく早いためだ。家計の住宅購入と新築が増えれば各種耐久財など、内需産業も同時に活性化する効果がある。

(中略 ※米国のサブプライムローン低所得者向けで会ったのに対し、韓国は償還能力が高い高所得者の借主の割合が高いことに触れ)

韓国銀行によると、2022年第4四半期基準で信用活動人口の約42%がローンを保有しているが、所得1~5分位は30%未満がローンを保有している反面、所得水準が最も高い10分位の信用活動人は75%がローンを保有している。韓国では貧富を問わず不動産投資を望んでいるが、所得が高ければ金融機関から融資を受けやすいという事情を反映したものと思われる。

このように高所得層中心の家計負債構造のおかげで金融危機の可能性が低くなる一方、金融機関の立場では家計貸出が魅力的な商品になる。家計貸出は企業貸出に比べて延滞率が低く、収益性と安定性の面でより好まれる。

(中略)

韓国の家計負債の構成を見ると不良化への懸念が大きくないのは事実だが、不動産市場やマクロ経済の衝撃によって危機となったケースも数回あった。グローバル金融危機によもなう国内不動産市場の低迷、2012年の貯蓄銀行の不良化事件、ムン・ジェイン政府の9.13対策以後、住宅価格が下落した2019年などがその事例だ。

(中略)

しかし、結果的に不動産価格が小幅下落しても政府が積極的に支援するという信頼が固まる契機になった。

イ・ジュング・ソウル大学名誉教授は、このような「歴代政府の涙ぐましい努力が不動産不敗の神話が強固に根付くのに大きな役割を果たした」とし「住宅市場が沈滞状態に陥り、その神話が崩れそうになったことが何度かあったが政府はそのたびに住宅価格の下落を防ぐために素早く介入することを繰り返してきた」と指摘する。

(中略)

政府の積極的な不動産浮揚策や金融不安への対応策をもとに、老若男女を問わず金融機関などから融資を受け不動産投資に乗り出している。不動産価格は上がり続け、一時的に停滞したり下落しても少し経てば十分に上がるという信頼が広く広がっており、これは数回の危機を経て自己実現的(self-fulfilling)期待として位置づけられている。すなわち不動産価格が上がると期待する人たちが不動産を沢山買えば実際に市場で価格が上がる性質を持つことになる。

ここで一つ注目すべき事項は、不動産投資に対する多くの人の信頼が互いに上昇作用をするという点だ。

(中略)

問題は負債を通じた不動産投資、不動産価格の上昇、そして不動産不敗の信頼で繋がった循環構造が永遠に続くことは出来ないという点だ。住宅価格があまりにも高くなり、未来の所得を全て動員しても買えない状況になればこの構造はこれ以上維持できない。この場合、二つのシナリオが考えらえる。

まず、不動産価格の下落と悲観的な展望の循環構造に変わり、不動産市場が崩壊する金融危機の可能性がある。

(中略)

もし広範囲で深く根付いた信頼が崩れるほど危機が進展すれば、その調整過程は非常に苛酷になるものと見られる。

(中略)

これとは異なり政府が今後も不動産市場の危機の度に介入する場合、経済の構造的な長期低迷につながる可能性がある。不動産価格の暴落を防ぎ、これに伴い金融機関の不良化も防止できるが高負債状態が持続するのだ。高い水準の負債にともなう元利金償還負担で民間消費沈滞が続き、経済全般の生産性も低くなりかねない。また、高い住宅価格や住居費用によって少子化も持続する可能性がある。

結局、この二つのシナリオをいずれも避けなければならない。このためには秩序ある家計負債デレバレッジングが必要だ。金融不均衡の拡大に低い金利が決定的な役割を果たしただけに、まず通貨政策はできるだけ緊縮基調を維持する必要がある。

(中略)
マクロ健全性政策の手段の中では、政策の時差問題が小さいDSR規制などを活用することが望ましい。



オーマイニュース「한국의 가계부채 위기는 왜 터질 듯 터지지 않나? [소셜 코리아](韓国の家計負債はなぜ爆発しそうにならないのか?)」より一部抜粋

著者はこの20年間、韓国経済は家計負債の増加を「容認できた」という説明をしていますが、違いますよね。記事中でも書いてあるように「負債主導の不動産市場浮揚政策」なんですから、家計負債増加を「容認した」です。「できた」ではありません。

なぜそうしたのか?私は専門家ではありませんので、断言はできませんけれども、恐らく記事に書いてある通りです。建築現場は大所帯ですし、工期も長いため建築業界が潤えば資材会社や周辺の飲食店も潤います。
いわゆる「トリクルダウン理論」というやつですね。日本などはこれを公共事業を増やすこと、つまり政府が借金することで実現しようとしましたが、韓国は国民の借金である家計負債で行ったということです。


それはともかく、結構長々と(状況説明しているので多少は仕方無い部分があるにしても)書かれた文章で、結局タイトルの伏線回収がどうなっているのか分かりにくいと感じます。
ザックリ言ってしまうと「そもそも韓国の家計債務は高所得者層の比重が高いため、家計負債そのもののリスクは然程高くないと言える」が韓国の家計負債が爆発しない理由です。

しかしながら、これが未来永劫安泰かというとそうではなく、いつか必ず限界が来ます。
今は「不動産神話(不動産は長期的に安全)」によって老若男女、所得の高低に関わらず誰もが不動産投資をやりたがる現状であり、そうした背景には不動産下落時に歴代政府が積極的に住宅市場浮揚政策を推進したことが挙げられます。(小幅下落してもすぐ戻るという絶対的な安心感を提供。なんせ国の政策ですから)
さらに収益性と安全性の高さから金融機関も積極的に融資している、という状況ですが、限界が訪れる前にDSR規制等々で家計負債を減らし軟着陸させなければならない、と。