どれだけ為替レートが急騰しても「通貨危機が起こる可能性は0」という話

1997年の通貨危機は韓国人に大きなトラウマとして残っていて、ドル高ウォン安になると通貨危機がまた起こるのではないかという記事がすぐに出てくるくらい根深いです。

今日紹介するのは、通貨危機が再び起こる可能性は「ほとんどゼロに近い」という主張のコラムです。その根拠として著者は「韓国が豊かになったからだ」と述べています。

記事中では「本願所得収支」と書かれています。韓国メディアの日本語版記事でもこの用語はちょくちょく出てきます。しかし、日本メディアではほとんど使われてない…というか、私は見たことがない用語です。(海外に投資した資産で発生した利子と配当金の収入と書かれているので、日本だと第1次収支に該当するものだと思われます)

で、この「本願収支」が確実に拡大しており、その要因は米国と韓国との金利差により多くの投資家が海外に投資しているためであり、また為替レートが上昇(ドル高ウォン安)すれば海外金融資産の価値も値上がりするので、外貨が枯渇することはない…つまり「通貨防衛が行える」というのが著者の主張です。

 



週刊東亜の記事からです。

ドル/ウォン相場急騰しても通貨危機再発の可能性は「0」


(前略)

為替レートが急騰する度に外貨準備高が減ることが分かる。為替レートが急騰すれば当局が外貨準備高を活用して市場に介入するためだ。特に、2021年から外国為替保有高の増加傾向が折れたことを見れば、最近の外国為替市場の変動性がどれほど大きいかが分かる。にもかかわらず、韓国は世界9位水準の外貨準備高を持っている。また、今後の外貨準備高が大幅に減る可能性もほとんどない。

外貨準備高が今後増加すると予想される最も直接的な原因は、大規模な経常黒字だ。

(中略)

国際原油価格が昨年から下方安定したのが経常黒字の最大要因だ。その上、今後は「本源所得収支」が経常黒字に及ぼす影響力もますます大きくなると予想される。本源所得収支とは、海外に投資した資産から発生した利子と配当金収入を測定したものだ。この指標が黒字という言葉は、海外に投資した資産が着実に増え、韓国に投資した外国人が本国に持っていくより多いという意味だ。

(中略)

韓国金利は米国より低くなり、投資家はより良い収益が期待される海外市場に進出している。いわゆる「西学アリ*1」熱風が代表的事例だ。国民年金も全体資産の半分以上を海外に投資することで、過去より高い収益を追求している。

(中略)

このような要因が複合的に作用し、昨年末、対外金融資産は2兆2871億ドル(約3132兆ウォン)に増えた反面、対外金融負債は1兆5072億ドル(約2064兆ウォン)に止まり、純対外金融資産は7799億ドル(約1068兆ウォン)の黒字を記録した。

(中略)

その上、為替レートの上昇が韓国経済に必ず悪影響を及ぼすとは言い難い。これも8000億ドルに迫る莫大な純対外金融資産を想起すれば理解しやすい。為替レートが上昇すれば、海外に保有している国民のウォン基準資産規模が膨らむのはもちろん、輸出企業の価格競争力も改善される可能性が高くなる。

(後略)



週刊東亜「달러/원 환율 급등해도 외환위기 재발 가능성은 ‘0’(ドル/ウォン相場急騰しても通貨危機再発の可能性は「0」)」より一部抜粋

確かに私自身も韓国に通貨危機が訪れるというようなことは考えていませんが、著者の主張の中にちょっと気になる点があります。

1つ目は、通貨危機は「防衛できなくなったから起こるもの」ということです。屁理屈のように聞こえるかもしれませんけれど、防衛できている間は誰も心配なんかしないんです。実際、1997年にはほとんどだれも心配していませんでした。
なので、通貨防衛できる根拠を示しても何もならないと考えます。通貨防衛できなくなってからのセーフティネットがどうなっているのか?こちらの方が大事でしょう。具体的には通貨スワップの有無です。

2つ目はタイムラグの問題です。対外金融資産がいくらあると自慢したところで、いざという時に即使える現金として手元にないと意味がありません。企業でたまに黒字倒産という状態になることがあります。売上が発生してから手元にその売上金が入ってくるまでの間に運営資金が底をついて倒産することを言います。
韓国が持っている対外金融資産、これは現金ではなく、国債社債という形で持っているはずなので、それを現金化して持ってくるまでには必ずタイムラグが発生します。

アジア通貨危機の始まりは1997年の7月ですが、韓国に本格的に影響が出始めるのは11月末から12月の頭にかけてです。特に12月5日の週、週頭に1ドル1147.50ウォンの始値が、12月11日には1712.50の最高値に到達します。1週間で約30%の上昇は、ドル円だと1ドル155円が1ドル201円になる勢いです。

過去の記事で何度か触れていますが、当時、米国FRBの議長だったアラン・グリーンスパン氏が回顧録にその時のことを書いています。きっかけは日銀幹部からの電話で「韓国がヤバイ」と聞かされたからです。
当時、韓国はすでに世界銀行から公式に先進国に分類されていました。また、韓国銀行は250億ドルの外貨準備高を保有しており、アジア通貨危機の波及を防ぐのに充分な規模だとみなされていました。

ところが、韓国銀行はその「豊富な」外貨準備高を取り崩して通貨防衛に充てようとしません。
チャーリー・シーグマンというエコノミストが韓国銀行の幹部に連絡し、そこで聞かされた事実は、韓国が保有しているとする250億ドルの外貨準備高はすでに使い道が決まっている資金であり、通貨防衛には使えないということです。民間銀行が不良債権を処分したり、補強したりするための資金として、ドルを売却した分を充てたり、貸付が行われていたりしました。(グリーンスパン氏はこれを「the government had played games」と表現しています。「play games」には「ごまかそうとする、嘘を吐く、もてあそぶ、いい加減な態度をとる」などの意味があります)

この時のように対外金融資産が「実際には使えないお金」である可能性は捨てきれません。そうなったら韓国は黒字倒産です。


*1:「東学アリ」が国内投資組を指すのに対し、「西学アリ」は海外投資組を指す。