金属食器文化のアイデンティティ崩壊の話

朝鮮時代の宮廷料理(軽食)を「見て食べて楽しみ共感する」というコンセプトで「水刺間視食公感(수라간 시식공감;スラッカン シシクコンガン)」というイベントが、景福宮(キョンボックン)で期間限定で開催されます。

スラッカン(수라간)というのはネソジュバン(내소주방;内焼廚房)の別称で、王の食事を準備するための内厨房を意味します。
韓国の時代劇で、宮女の復讐物語の舞台がこのスラッカンだったようで、2015年に新たに立て直されたのを切欠に始まったイベントのようです。
上半期、下半期それぞれ1ヶ月ほどの期間、開催されています。


はっきり言いまして、私は韓国の文化をバカにするつもりは全くありません。
まあ私は日本で育った日本人ですから、日本文化が一番親和性が高いのは間違いありませんけれども、日本文化と韓国文化が一部似ていたとしても独立した別文化である以上、比較してどっちが優れている、とかいうのはそもそもナンセンスであり、あくまで個人の主観による好悪のレベルの話にしかなり得ません。


であるので、これは飽くまで私個人の「嫌い」と感じる部分の話になるのですが……韓国さんのこういうところ(・・・・・・・)、ホント嫌いです。


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上の写真はイベントを主催している韓国文化財財団の公式ページから拝借してきました。
当日に提供される宮廷料理の実物の写真です。下にはメニューが書かれています。

宮廷料理に詳しくないので、内容が正しいのかどうかは知りません。(以前KBSの番組で行われた再現のキャプチャを見た限りでは、もっと雑多な盛り付けです)
が、明らかに違うだろうと分かるのが食器が陶器でカトラリーが木製であることです。


食事中は宮廷音楽が奏でられ、文字通り「王になった気分」を楽しめることがこのイベントの醍醐味になっています。

李氏朝鮮時代の上流階級の食器や箸(匙)は金属製のものが使われていました。
銀製と説明される場合がありますが、銀製を使えたのは一部の上流階級のみで、ほとんどは真鍮製だったようです。
銀はヒ素に触れると黒く変色すると言われていたため*1、毒殺を警戒して用いられていたとされています。
(真鍮製だとヒ素で変色はしなかったでしょうから単なる見栄の問題でしょうか?)

金属製食器は特権階級のアイコンとなり、庶民の憧れでした。
ステンレス製の食器が多用されるのはそのためです。


陶器は庶民が使っていた(らしい)食器です。そこに宮廷料理を並べるのは意味不明です。
ただの晩餐会ならともかく、わざわざ宮廷音楽を奏でながら、スラッカンで朝鮮時代の宮廷料理を饗する場で、王になった気分を味合わせるイベントなのであれば、金属製食器が使われるべきじゃないのでしょうか。

銀製は無理としても、真鍮製や安価なステンレス製での代用は可能だったはずです。
なんで食器だけ庶民に(おと)すのか…いや、100歩譲って食器は良いとして、箸と匙はなぜ金属製じゃないのか…謎すぎます。

金属食器文化は立派な朝鮮の宮廷文化だと思うのですけど。


意地悪な見方をしますと、木製の箸や匙は「和」テイストに寄せているように見えてしまうのです。
陶器の食器と木製の箸(匙)の組み合わせは、皮肉なことに和食に慣れている人ほど違和感を感じないでしょうね。


現在、世界的に和食と韓国料理のどちらが知名度が高いかと言えば、間違いなく和食でしょう、それが正しく和食であるかは別として。
そうしたことから、どこかで和食に使われている「陶器と木製箸」の組み合わせの方が高級なイメージがあるように勝手に錯覚しているのではないかと感じます。


その真意はともかくとして、文化財財団を名乗る組織が主催するイベントでこうしたことを平気でやってしまう姿勢、そういうところが嫌いです。


*1:実際はヒ素の成分に反応して黒くなるわけではない。昔の生成技法では、ヒ素の製造中に使用される硫化物を十分に除去できなかったため、硫化物と銀が反応して黒く変色する可能性があったというだけのこと。