「賠償は韓国政府、謝罪は日本政府」という話

日韓経済人会議の席で、中央日報などを傘下に持つ中央ホールディングスの会長が徴用問題について「韓国が特別法を作って賠償し、日本は謝罪する」のが現実的な解決法と述べました。痛み分けのつもりでしょうか?

そして合わせたかのようなタイミングで、朝日新聞も韓国政府が賠償する可能性について社説で論じました。
社説なので、具体的な動きを報じたものではなく、編集委員が「政治的な解決法」としてその可能性に言及したものです。

しかし、どちらも(自称)被害者たちの視点が抜け落ちています。
「被害者たちが納得していない」、「被害者中心主義」…これらが大義名分となっているのに被害者を置いてけぼりにして政治的解決を目指したとしても、またすぐにぶり返しませんかね?


「徴用賠償問題の解決、韓国は特別法を作成し、日本は謝罪を」


韓日経済人らが27日、第52回韓日経済人会議を開き、行き詰まった両国関係を解いていく方策を議論した。

(中略)

この日の基調講演を務めたホン・ソクヒョン韓日ビジョンフォーラム代表兼、中央ホールディングス会長は現在の韓日関係について「たった一つの対立要因であっても、積み重なればラクダの背を折る最後の藁になる可能性がある」と分析し、「韓日協定60周年の2025年を目標に、今から歴史和解のプロセスに入らなければならない」と提案した。

(中略)

ホン会長は韓日関係の懸案である強制動員被害者賠償判決と関連して「両国の指導者が政治的リーダーシップを発揮しなければならない」と強調した。続いて、政府が司法手続きに介入することができないため、特別法の立法手続きを通じて日本に逃げ道を作ることを約束することが現実的な手順と提案した。このような前向きの措置を通じて日本に振り回されずに一気に道徳的優位に立つことができるという指摘だ。彼は「韓国政府は過去に二度の賠償をした経験をもとに、国会で特別立法を通じて第三の賠償措置を捕るべき」とし「親日か否かの議論から自由で民主化の正当性を持つムン・ジェイン政府はこのような決断を下す資格と余裕がある」とも述べた。
ホン会長は、代わりに日本政府は不法植民地支配と強制徴用に謝罪し、反省する立場を明らかにすべきだと強調した。

(中略)

ホン会長は韓国が日本と早急に関係回復しなければならない理由として北韓問題をあげた。彼は「韓国が日本との協力的な関係を復元すれば米国との関係を促進することができ、中国からもより公正な待遇を受けることになるだろう」とし「韓国が日本、米国、中国からの尊重を受けるならば、北韓も韓国を無視することができなくなるだろう」とした。
実際最近、菅首相北韓との関係改善の可能性を示唆している。特に数百億ドルに達すると予想されている対日請求権資金は、北韓が開放された時の経済開発の呼び水となり、北韓で発生する膨大な開発需要は発展が必要な日本経済に新たな活力を吹き込むとホン会長は見た。

中央日報「"징용배상 문제 해결, 한국은 특별법 만들고 일본은 사과를"(「徴用賠償問題の解決、韓国は特別法を作成し、日本は謝罪を」)」より一部抜粋


この人は一体何を言っているんでしょう?


あからさま過ぎて突っ込むのも馬鹿らしいのですが、ホンさんの優先事項には「北朝鮮」があります。
ホンさんの理屈で行くと

「日本と仲直りできれば米国とも上手くいく。中国も韓国を無視できなくなる。日米中への韓国の影響力が高まれば、北朝鮮に頼ってもらえる」

こんな感じのお花畑が展開できそうです。
記事の書き方ではどう頑張っても「日本と仲良くするのは北朝鮮との関係のため」としか読めません。

そして日本が北朝鮮と仲良くすると経済的なメリットもある、としていますけれどもホンさんの理屈の大前提は「北朝鮮が開放される」ことです。
これは市場開放という意味でしょうが、果たしてあり得るでしょうか?


賠償の責任は既に韓国政府に移っているので、韓国政府が賠償する分には構わないと思います。
しかし、韓国政府は過去に2度、元・徴用工に賠償を行っているというのは、逆に言えば過去に2度賠償を行ったのに解決してなかったということでもあります。
3度目の正直で解決するという保証はありません。またぞろ「被害者が納得していない」と言い出すことも踏まえて恒久的に韓国政府が対応する、という確約が必要です。


道徳的優位がどうしたとか、他にもツッコミどころはありますけれども、今までの「会いに来た」だけの議員や大統領府関係者に比べれば随分思い切ったことを言ったなとは思います。


次に朝日の社説を報じたアジア経済の記事からです。

日、朝日「韓国政府、日企業の代わりに徴用訴訟返済するか」


(前略)

30日、朝日新聞の牧野愛博編集委員はこの日「ムン政府の決断、信頼関係が鍵」という題の社説を通じて韓日の葛藤が懸案である徴用訴訟と関連し「日韓両国政府での政治的決着しか解決の道はないという声が出ている」とし「韓国政府が被告の日本企業に代わって原告に返済し、判決執行を無力化する代わりに、日本は昨年の夏に実施した半導体材料などの輸出管理厳格化を停止するだろう」と主張した。

牧野編集委員は「韓国政府がそのような決断を断行する可能性はある」とし「東京オリンピックを契機に南北対話を実現するために日韓関係改善の必要性が差し迫っているため」と主張した。続いて「日関係の改善を強く要求する米国のバイデン新政権に韓国は努力する姿をアピールしたいという政治的思惑もあるだろう」と説明した。

(後略)

アジア経済「日 아사히, "韓정부, 日기업 대신 징용 소송 변제할수도"(日、朝日「韓国政府、日企業の代わりに徴用訴訟返済するか」)」より一部抜粋


繰り返しになりますが、仮に政治的判断として韓国政府が賠償する事にしたとしても、韓国内の世論を納得させ、更に恒久的に賠償対応を行うことまでを韓国政府に確約させないと意味がありません。