金融市場の弱い輪、「セマウル金庫」で預金引き出しが起こっている話

今回の記事とは直接関係ありませんが、昨日の補足として。
昨日お伝えした徴用訴訟の代位弁済「供託」の件、結局4件とも「不受理」となったそうです。やれやれ。日韓関係の改善の前提条件が徴用訴訟の解決だったはずですが...どうするつもりでしょうね?一部メディアは「第三者弁済の適法判断」のための裁判が避けられなくなったため「長期化」すると見ているようです。


それはさておき、韓国の金融圏には「セマウル金庫」という一種の組合金融があります。地域住民は出資金を出すことで組合員資格を得ることができます(税金優遇制度あり)。
農協などが金融委員会(日本でいう「金融庁」)の監督下にあるのに対し、セマウル金庫は行政安全部(日本の「総務省」+「警察庁」)が監督しているという特徴があります。監督省庁が違うこともあり、各種金融統計から基本的に省かれています。

しかし、ここも他の金融機関と同じで色々な問題を抱えていまして。特に、昨年辺りから話題になっているPF(プロジェクトファイナンス)問題があります。セマウル金庫はPF事業に積極的で2023年4月基準の不動産融資規模は56兆ウォン。2019年比の2倍に膨れ上がっています。延滞率も6%(2019年は2.5%)に急増していました。
そしてとうとう昨日、南陽州東部セマウル金庫が600億ウォン規模のPFが原因で花島セマウル金庫と合併することになりました(120億ウォンが過剰貸付と調査)。書類のみの杜撰な審査が原因とされています。これにより一部でバンクラン(預金引き出し)の動きが起こっているそうです。

 



文化日報の記事からです。

延滞率、都市銀行の19倍「金融界の雷管」セマウル金庫...政府、危機対応団を緊急構成


12年ぶりに一部支店でバンクラン(大規模な預金引き出し)の兆しを見せているセマウル金庫が、金融市場の弱い輪になりかねないという懸念が高まっている。金融市場の特性上、不安心理が一度拡散し始めればセマウル金庫を越えて隣接する信用協同組合など他の相互金融や貯蓄銀行などに、手の施しようもなく拡散する可能性があり政府も「非常事態」である。

(中略)

セマウル金庫の延滞率は昨年末の3.59%から、今年第1四半期は5.34%に、先月14日基準では6.49%に急騰した。信協と農協、水協などの相互金融圏の第1四半期延滞率(2.42%)より2.5倍ほど高い水準だ。特に一部地域のセマウル金庫の延滞率が30%台に上がった中、南陽州東部セマウル金庫の廃業が決定されると、顧客の不安心理は一気に大きくなった。

問題はセマウル金庫の危機が第2金融圏全般に拡散すれば、システム不安に飛び火しかねないという点だ。高金利が長期化し、不動産市場が低迷し、不動産プロジェクトファイナンス(PF)貸出不良リスクが高い相互金融や貯蓄銀行の健全性も悪化している。

(中略)

行政安全部は4日、延滞率縮小特別対策を出したが力不足だったと見られる。行安部は延滞率が10%を超過する金庫30ヵ所に対して10日から5週間特別検査を、来月には延滞率が平均より高い70ヵ所を対象に特別点検を実施することにした。合わせて1兆2000億ウォン規模の不良債権を年内に整理し、不良の震源地となった不動産・建設業種貸出が全体の50%を越えないようセマウル金庫法施行令を改正するという計画だ。続いて、5日には顧客の預貯金規模の約30%である77兆3000億ウォンを現金性資産として持っていると明らかにした。セマウル金庫の預・積金は他の金融機関のように5000万ウォン限度内で預金者保護が適用され、これを超過する金額でも他の金庫に100%移転されるので全額保証されるという点も強調した。

(後略)



文化日報「연체율 시중은행의 19배 ‘금융권 뇌관’ 새마을금고 … 정부, 위기대응단 긴급구성(延滞率、都市銀行の19倍「金融界の雷管」セマウル金庫...政府、危機対応団を緊急構成)」より一部抜粋

先に「セマウル金庫は各種金融統計から省かれている」としましたが、そもそも延滞率や受信残高(預かり金残高)などの基本情報が公開されていないため、データが集められないから省かれています。データが公開されていないのは監督省庁が違うからです。

12年前にもセマウル金庫ではバンクランが起こっています。そのときは2日間で2兆5000億ウォンの預金が引き出されたそうです。
発端は当時の金融委員長が「市場不安要因にならないよう準備せよ」と幹部会議で話したことが逆に不安を煽った形になったようです。
その教訓(?)で今回は逆に「問題ない」と言っているだけなのか、本当に「問題ない」のか...。