ドイツ研究チーム「LK-99 は絶縁体」という話

韓国の研究所が発表した常温超伝導体とされる「LK-99」。発表後、関連株が急騰しました。
しかし各国の研究者が疑義を示し、急遽組織された韓国の検証チームも一次判定で「超伝導体ではない」との見解を示してたことで急落しました。
ですが、実はその後、また上がっていました。というのも、ボナサピエンスという韓国内企業の代表が「LK-99 は超伝導体」と主張したためです。キム・インギさんという人なんですけど、この人がどのような人なのか、どの程度影響力のある人なのか分かりません。(メディアは物理博士と報じています)
ちなみにボナサピエンスと言う会社ですが公開されている会社情報によると2019年に起業したスタートアップ企業で、業務内容はアプリケーションソフトウェア開発、経営コンサル、広告代行などとなっています。社員数は1名です。

とにかく、この人がSNSで「LK-99は超伝導体」と認める発信をしたそうで関連株は再び急騰しました。ところが「Nature」が16日付でドイツの研究チームがLK-99の合成に成功し、その結果この物体が超伝導体ではなく絶縁体であることを突き止めたと報じたことで急落に転じています。

 



聯合ニュースの記事からです。

ネイチャー「LK-99は超伝導体ではない…ドイツ研究チームが答えを見つけた」


ドイツのシュトゥットガルトのマックス・プランク個体研究所の研究チームが韓国研究陣が常温・常圧超伝導体だと発表した「LK-99」が超伝導類似現象を示す理由を究明し、LK-99が超伝導体ではないという事実を突き止めたと科学ジャーナル「ネイチャー(Nature)」が16日(現地時間)報道した。

ネイチャーはパスカル・プファール*1博士が率いるマックス・プランク個体研究所研究チームがLK-99の純粋な単結晶合成に成功し、LK-99単結晶は超伝導体ではなく、むしろ絶縁体であることを突き止めたと伝えた。

研究チームは14日に公開したこの研究で、韓国研究チームが示した超伝導類似現象は、LK-99製造過程で生じた不純物である硫化銅(C2S*2)によるものだとし「私たちは超伝導の存在を排除する」と結論付けた。

(中略)

ネイチャーによると、ドイツの研究チームは韓国の研究チームと検証に乗り出した海外の研究チームがLK-99を坩堝*3で過熱して製造したのとは異なり、「浮遊領域結晶成長(floating zone crystal growth)」技法で硫黄(S)の浸透を防止し、硫化銅不純物の無い純粋なLK-99単結晶(single crystal)を作るのに成功した。

研究チームが作ったLK-99単結晶は透明な紫色で、実験結果は超伝導体ではなく抵抗が数百オームに達する絶縁体であることが明らかになり、若干の強磁性と反強磁性を示すが磁石の上で浮くほどではないことが分かった。

プファール博士は「LK-99で見られた超伝導類似現象は、純粋な単結晶にはない硫化銅不純物に起因したものと見られる」とし「この実験結果は(固体特性を究明するのに)単結晶が必要な理由を正確に示している」と話した。

(後略)



聯合ニュース「네이처 "LK-99 초전도체 아니다…독일 연구팀이 답 찾았다"(ネイチャー「LK-99は超伝導体ではない…ドイツ研究チームが答えを見つけた」)」より一部抜粋

Natureの元記事はこちらで読めます。単結晶の写真も載っています。ほんのり紫色(見ようによっては茶色?)のさざれ石のような物質で、見た目も全然違います。

ざっとですが目を通したところ、中国科学院(CAS)の研究チームが不純物の含有テストまでやっているようです。LK-99を異なるプロセスで合成し、含まれる不純物の量を計測。さらに意図的に不純物が含有された状態のサンプルを作成して韓国の研究チームが論文で公表した実験数値(抵抗値など)と比較して一致することを確認しています。(発表は8月8日)

これにより「LK-99は常温超伝導体ではない」との答えは出たようなものでしたが、じゃあ結局「純粋なLK-99」の特性とは何だったのか?が疑問として残りました。それに「絶縁体」との結論を出したのが今回のドイツチームの研究です。
つまり、多くの研究者の間ではとっくに超伝導体か否かの答えは出ていて、既にそれは論点ではない、と。

*1:Pascal Puphal

*2:原文ママ。しかしNatureの元記事は「Cu2S」となっている。

*3:るつぼ。高熱を利用して物質の溶解や合成を行う際に用いる耐熱容器。