ムン政府、『クアッドプラス』を北朝鮮政策のための手段と見ている話

韓国大統領直属の組織である政策企画委員会所属の大学教授が米国の政治専門紙に寄稿した文で「ムン・ジェイン大統領はクアッドプラスに参加しようかどうしようか考え中」としました。

クアッドは建前はともかく、「中国包囲網」と考えられていることはご存知でしょう。
ですが、寄稿文には肝心の中国のことはほとんど出てきません。一言だけ「韓国には反中国のクアッドに参加する誘因(incentive)がなかった」としてあるのみです。

じゃあなんで「考え中」になるかと言うと、北朝鮮です。見事に北朝鮮のことしか書かれていません。


ヘラルド経済の記事からです。

「ムン政府、『クアッドプラス』参加に苦慮」...大統領直属組織の関係者が明らかに


(前略)

大統領直属の政策企画委員会平和分科所属のファン・ジファン・ソウル市立大教授は8日(現地時間)キングス・カレッジ・ロンドンのラモン・パチェコ・パルド*1准教授とともに米政治専門メディア「ザ・ヒル」への寄稿文で「ムン・ジェイン政府は韓米同盟に対する(韓国側の)寄与を可視的に表して、間接的にはバイデン政権の対北政策に影響を及ぼすためにクアッドプラスに参加するか『思案中』(pondering)」とした。

「韓国はバイデンの北韓接近に希望を見出す」というタイトルの寄稿文はバイデン政権の対北政策の検討作業とムン・ジェイン政府のクアッドプラス合流の可能性を連結させた。ファン教授は「バイデン行政部はクアッドを『考え(価値)が同じ国家の集団』に拡大したい、これはムン・ジェイン政府の利害関係とより一致する」とし「最終的に、外交と交渉は北韓の核プログラムを中断させることが唯一の現実的な方法」と述べた。

寄稿文は大統領直属期間で韓半島政策を諮問する委員がクアッドプラス傘下の可能性を明示的に言及したという点で注目される。これまで韓国は米国のクアッドプラス参加の要請に沈黙してきた。韓中貿易関係だけでなく、韓半島平和プロセスを推進する過程で中国を刺激する必要はない、という判断のためだ。

(中略)

寄稿文は「韓国政府はバイデン政府が同盟協力、外交活用、多国間主義を利用することに焦点を合わせていることを歓迎している」とし、バイデン政府の対北政策が韓国にとって韓米関係改善の真の証拠になる、と主張した。
また「バイデン政府が対北政策検討作業を数カ月の間ずるずると引き延ばすようなことが起こらないことを願う」とし「戦略的忍耐2.0」で北の核状況を悪化させる結果をもたらしてはならない、と強調した。

また、「米国と北韓、は北韓の各能力を停止(cap)させる軍縮協定をもって対話を始め、その見返りとして対北制裁の緩和など経済的利益を提供できるだろう」とし「ムン・ジェイン政府はそうなったとき、持続可能な経済的関与プロセスを拡げる機会があると見ている」と説明した

ヘラルド経済「“文정부, ‘쿼드 플러스’ 참여 고심”…대통령 직속 기구 인사가 밝혀(「ムン政府、『クアッドプラス』参加に苦慮」...大統領直属組織の関係者が明らかに)」より一部抜粋


元の「TheHill」の記事はこちらで読めます。(広告ブロッカーを入れているとメッセージが表示されます)

「クアッドプラス」の話しから始まって、最終的に「北朝鮮」に着地するいつもの展開です。
米国の北朝鮮政策に影響力を持つために「価値観を共有する」国の集まりに参加しておくべきかどうか、「考え中」ということです。
つまり「クアッドプラス」自体のあり方に意味を見出しているのではなく、ワシントンへの影響力を行使する「手段」として「クアッドプラス」を見ているよ、という自白でもあります。

また、韓国メディアの記事では書かれていませんが、TheHillの原文の方には「北朝鮮が望んでいるのは経済発展である」ということが書かれています。
だからこそ「援助やその場しのぎの事業は優先事項ではないと明言している」とし、「韓国大統領は持続可能な南北間の平和プロセスの基礎を築くことが自分の義務だと考えている」そのために 北朝鮮への制裁を緩和する必要がある」 としています。

北朝鮮が望んでいるのは経済発展ではなく体制の維持ですし、仮にこのまま経済発展を続けたとして韓国はそれで良いんでしょうか?ますます統一から遠ざかると思うのですけれど。

最後に訳について補足しておきます。
韓国メディアの原文には「고심(コシン)」と書かれています。「고심」は漢字で書くと「苦心」なんですけど、日本語の意味とは少しズレると思うので使っていません。

日本語の「苦心」は辞書的には「物事を成し遂げようといろいろ考えたり苦労すること」となります。
ですが韓国語の「고심」はNAVER辞書によると「心配して気を遣う」と説明されています。用例などを見ても「思い悩む」の意味になっていて、日本語だと「苦慮」の方が近い印象です。

つまり「物事を成し遂げようと」の意味合いがありません。それは英語の「pondering」の訳に当てられていることからも分かります。
「pondering」は某もちもちドーナツではなく、「熟考する、思案する、あれこれ考える」的な意味の「ponder」の現在進行形で「思案中」です。
「何かを成し遂げようとその方法を考え中」というより、やるかどうかも含めて「考え中」と捉えた方が良さそうです。

韓国語は日本語と似ているから簡単、と安易に言われますけれど、同じ漢字語なのに意味が微妙にズレる所があるので逆に難しいと思います。

*1:Ramon Pacheco Pardo