10年間でUターンした韓国企業160ヵ所、国内での操業再開は54ヵ所だけという話

米国(2021年)1844社、日本(2018年)612社、韓国(2021年)26社...海外から国内に拠点を戻したUターン事業所の数です。
日本だけ年が統一されていないのがちょっと気になりますが、大体年平均で600~700が戻っているんだそうです。台湾も年平均70ほどがUターンしているそうです。
韓国だけ極端に数が少なく思えます。
2014年からの10年間の集計だとUターン企業は全部で160社。このうち国内で操業を再開したのは約3分の1にあたる54社に過ぎません。半数以上の83社は「準備中」だそうです。(残りの16社は廃業、7社はUターン取り消し)

これはリショアリング(海外に移った製造拠点を国内に呼び戻す)の目的を明確に理解せずに、ただ「Uターン企業数」だけに拘って制度を推し進め、まともな管理や企業選定が出来ていなかったから、との指摘が上がっています。

 



朝鮮日報の記事からです。

1年間のUターン企業...韓国26ヵ所、日本612ヵ所、米国1844ヵ所


この10年間、海外から国内に戻って工場を稼働しているUターン企業は計54社だ。年に5カ所程度だ。2008年の金融危機以後、各国が産業基盤拡大のためにリショアリングに乗り出すと、これを追って2013年末に支援法まで作りUターン企業誘致に乗り出した政策の「10年成績表」だ。

(中略)

米国は2014年に340社だったUターン企業が2021年に1844社まで増え、日本も2018年に612社が戻ってくるなど、毎年600~700社ずつ企業が戻ってくる。韓国より規模の小さい台湾も1年に戻ってくるUターン企業は年平均72社だ。Uターンを宣言した企業が2021年に26社、昨年24社に止まった韓国とは格差が大きい。

(中略)

20日、国会でヤン・グムヒ議員室と産業通商資源部、韓国輸出入銀行などによると、2014年から今年8月まで国内復帰を宣言したUターン企業は計160社だ。この中で16社は帰って来てから廃業し、7社はUターンを諦めてしまい、8月末基準で残ったUターン企業は137社に止まる。それさえも実際に戻って工場を稼働する企業は54ヵ所に過ぎず、半数を超える83ヵ所がまだ操業を準備しているだけで稼働は先のことだ。

しかし同期間、国内企業が海外に設立した法人は計2万8670社に達する。

(中略)

一時「Uターン企業1号」としてよく知られたパワーENGのチャン・ヨンムン前社長は今は月205万ウォンを受け取る最低賃金労働者に転落した。中国広東省で事業をして2012年に全羅北道群山に基盤を移し、数十億ウォンを投資したが結局2019年5月に会社を廃業した。チャン前社長は「今、全羅北道と群山市を相手に投資金返還請求訴訟を進行している」として「Uターン企業を増やすことだけに目がくらんだ政策当局の支援が不十分で私は被害者になった」と主張する。

Uターン制度はジュエリー、靴など海外で競争力が落ちた企業を大挙引き込み開始の段階から拗れたという評価を受けている。初年度の2014年に選定された27ヵ所のうち12ヵ所が廃業と事業放棄でUターン企業認証が取り消されたほどだ。チャン・ソクイン・テジェ未来戦略研究院研究委員は「なぜUターンしなければならないのかに対する明確な目標なしに海外が行っているというので制度を導入したが、選定や管理がまともに出来なかった」と話した。

しかし海外はUターン企業が規模も大きいだけでなく拡大傾向にある。米国はAppleボーイング、GEなど先端産業企業が自国に復帰したり準備している。フォードは海外工場の建設を撤回し、ミシガン州にスマート工場を推進しており、インテルは昨年オハイオ州半導体工場2カ所を着工した。日本も円安の中、海外に発った企業が続々と戻っている。パナソニックが2015年に中国に会った家電工場を国内に移し、ホンダは小型バイク生産工場を2017年に熊本工場に移転した。ロボット市場の強者であるセイコーエプソンは現在1対4の日本と中国の割合を2025年までに2対3に変えることにした。ソン・テユン延世大学教授は「競争力の高い企業のUターンのためには持続的な税金減免と規制改善など強いインセンティブが必要だ」と話した。



朝鮮日報「1년간 유턴기업… 한국 26개, 일본 612개, 미국 1844개(1年間のUターン企業...韓国26ヵ所、日本612ヵ所、米国1844ヵ所)」より一部抜粋

海外に製造拠点を移す理由は物流の関係などもありますが、やはり一番大きいのは人件費です。
日本や米国でUターンが増えたという2018年は米中葛藤が本格化した初年です。(トランプ政権下で「アジア再保障推進法」が発効したことで表面化)
リスク回避の一環としてUターンを選択する企業が多かったと思われるのですが、このとき韓国ではムン政権が推し進める所得主導型成長政策真っ只中で人件費が高騰していました。動きたくても動けなかったんでしょう。それとリスクに対して鈍感だというのもあるかと思います。

記事の最後にも出てきますけれど、この手の話題のときは必ず「減税」「支援」などのインセンティブの話しかしません。リスク管理の話は一切出てきません。日本のUターンの部分も「円安」としか書いてませんしね。
日本や米国のUターンの動機は間違いなく(中国)リスクの軽減で、そこに政府からの支援があり「動機」と「手段」がかみ合った結果です。
支援をいくら増やしても企業側に「動機」が芽生えなければ動かないでしょう。禁煙みたいなものです。禁煙外来が保険適用でも、そもそも禁煙する気の無い人は利用しないでしょう。それと一緒です。


ところで、記事を読んでいてすごく妙な気分になりました。韓国でUターンしてきた企業は、単に海外で事業が上手くいかなくなったところが多かっただけのように読み取れるからです。一旗揚げようと都会に出て行ったけれど上手く行かずに田舎に引き上げてきた...そんなイメージです。
リショアリングが目指すUターンの形と完全にズレてますね。記事に出て来る研究員の言うように「他の国がやっているから」という理由で「明確な目的なし」にはじめてしまい、前社長さんの言う通り「Uターン企業数を増やす」ことだけが目的になってしまった、ということでしょうか。