「半導体用ウェーハのグローバル工場が韓国に出来ます」という話

半導体用ウェーハ(シリコンウェーハ)とは、半導体の基盤になるものです。
ニュースなどで、よく「円盤」の写真が出てきますが、それです。その円盤に回路を書き込みます。

韓国向けの輸出制限の対象にはなっていませんが、日本企業が世界シェアの約60%を占めているものなので「GSOMIA終了後、規制強化の対象になるのでは?」との見方が少なからずあるようです。
例えそうならなかったとしても「日本企業への高依存」という現状に危機感を抱いていることは確かなようです。

台湾企業が新たに半導体用ウェーハ製造工場を韓国内に竣工するという記事が掲載されたのですが、コメントが「安倍が最終的に負け戦」とか「日本はすぐに市場から退出」など、お祭りワッショイ状態です。


KBSの記事からです。

50%日本産「半導体ウェーハ」国内生産...グローバル工場「日ではなく韓国に」


日本が山の半分を占めていた半導体核心素材、ウェーハの生産工場が国内に竣工され、日本産の5分の1ほどを置き換えることができました。

MEMC(MEMC*1コリアは今日(22日)、忠南、天安市で新第2工場の竣工式を行いました。

第2工場の半導体用のシリコンウェーハを製造する工場は、MEMCの親会社である世界3位のウェーハメーカーのグローバル・ウェーハズが約5千400億ウォン*2を投資しました。

産業部は、今回の竣工で日本から50%輸入しているシリコンウェーハの約9%ポイントの代替え効果があると明らかにしました。

(中略)

ウェーハ工程に必要となる日本産高純度フッ化水素は台湾産で調達先を多様化し、輸入許認可も従来の3ヶ月から1ヶ月に短縮しました。

政府はまた、世界3大半導体装置メーカーであるラムリサーチが研究開発センターを韓国に設立することにした、とし、米国とドイツの企業も検討に入ったと明らかにしました。

KBS「50% 일본산 ‘반도체 웨이퍼’ 국내 생산…글로벌 공장 “日 대신 한국에”(50%日本産「半導体ウェーハ」国内生産...グローバル工場「日ではなく韓国に」)」より


最初、記事のタイトルだけ見て「国産化成功?」と思ったのですが、内容を読んで「…あれ?」となりました。
国産化ではなく 海外企業の製造拠点を誘致 という形です。

製造拠点が国内にあれば、相手国との関係が悪化しても輸出規制というカードは切れないだろう、と見越してのことでしょうか。
海外企業への高依存は変わりません。けれど、日本企業でなければ危機感は抱かないようです。


ところで、この記事には肝心の半導体製造メーカーの声が一切出てきません。
「約9%ポイントの代替え効果がある」と言っているのは産業部です。企業が「使う」とは言っていません。


ご存知かもしれませんが、シリコンウェーハもフッ化水素も、製造過程で用途によって複数の品質の物を使い分けます。

特に高純度のフッ化水素は最先端半導体製造プロセスでは必須で、トゥウェルブ9(9が12個の99.9999999999%純度)の品質のものは、現在日本企業3社(ステラケミファ、森田化学、ダイキンしか製造していません。
調達先を多様化したところで、日本製を0にすることは、現時点では事実上不可能です。


メモリ半導体も含めた半導体産業において、中国の猛進を警戒している韓国企業はそれが分かっているからこそ、少しでも品質を落とす可能性のあることを嫌がるのでしょう。
韓国メディアも政府も、なんだかんだ言いながら本当のところは分かっているんじゃないかと思うのですけどね…。

それにしても「グローバル工場」と書かれると、まるでグローバル輸出向けの基幹工場が出来るかのように受け取れませんか?
工場を建設する会社の 親会社の社名が「グローバル・ウェーハズ」 という名前なので、嘘ではないのですけれど、誤解を招きそうです。
「タイトルしか読まない人」向けにわざとでしょうか?それとも単に字数制限によるものでしょうか?


*1:米国に本社があるサンエジソンセミコンダクターズ社。通称「MEMC」。2016年に台湾のグローバル・ウェーハズに買収されている。

*2:約490億円