青い街灯が犯罪を減少させるという誤解の話

犯罪が発生しにくいような環境作りを 防犯環境設計(CEPTED;セプテッド) と言うのだそうです。
一定間隔に街灯を設置して薄暗い路地の死角を無くすとか、環境自体に犯罪抑止効果を持たせるのですね。


犯罪は死角で行われる

少し前にNYが行った取り組みで「落書きを消す」というものも防犯環境の一つです。
落書きされてもすぐに消されると、その場は「誰かに管理されている」ものとして無意識に認識されます。
「見てるよ」というメッセージが発信されているわけです。
人間の心理として「誰かの管理下にある場所=アウェー=自分が不利」という状況下では、大胆なことは出来ません。
例え犯罪を犯しやすい(モラルの低い)人であっても、「犯罪を犯しても大丈夫そうだ」と思える場でないと実際の犯罪行為は行いません。
ポイ捨てされたゴミが次のポイ捨ての呼び水になるのと似ています。

そうした「犯罪を犯しても大丈夫そうだ」と思われるような場(背景)に焦点を当てたのが防犯環境設計になります。


青色の街灯が犯罪抑止になる、というのは誤解

中央日報さんに「街灯の光のみ変えても犯罪減少…女性安全に集中する」という記事が出ていました。
多分、日本語版は出ていないと思うので、ざっと概要をまとめておきます。

  • 特に一人暮らしの若い女性の犯罪に対する不安感が高まっている。
  • 女性の不安を解消し、女性犯罪の総括的な対応のために、女性安全企画官の新設を推進することになった。
  • 女性の視点から、地域社会と警察が一緒に犯罪の要因を解消し、「共同体治安」定着のために努力していく。
  • 防犯環境設計(セプテッド)の効果は米国・英国・日本など主要先進国で犯罪を大幅に減少させた。
  • 1980年代、英国では街灯の明るさを5ルクスから10ルクスに上げたところ、歩行者の道路使用率が50%以上増加した。
  • 日本の東京では六本木ヒルズなど、都市計画の段階から防犯環境設計が導入されており、すべての駐車場には非常ベルが、歩道には5m感覚で照明が設置されている。街灯の光をオレンジから青に変えた結果、犯罪率が20%減少した。
  • 韓国では防犯環境設計事業を通じて窃盗38.3%、強盗60.8%が減少する成果を収めた。
  • 治安や防犯は警察だけではなく、物理的環境の改善と住民の心理的な安定を図る必要がある。


ちょっと長い上に、一部誤字があったりもしたので勝手に直していますが、概ね上のような内容です。

少し気になったのは、英国や日本については防犯環境設計の具体的な取り組みが説明されているのに、韓国自身については「成果」のみ(見落としてなければ)で、どういう取り組みがあったのか具体的に書かれていない点でしょうか。
記事の主旨も、想定している読者も韓国国内向けなのだから、そのあたりの情報をもっと充実させれば良いのに、と勝手に思ってしまいました。


記事のタイトルにもなっている「街灯の光のみ変えても犯罪減少」というのは、日本の取り組みで触れられている街灯をオレンジ→青に変えたというものでしょうね。
日本の報道でもたまに見かけますが、街灯を青に変えたことは直接的な犯罪低下に繋がらなりません。


減ったのは麻薬関連犯罪のみ、なぜなら…

青色街灯が防犯効果がある、という説は今から14年ほど前にとある民法が「グラスゴースコットランド)で街灯をオレンジ色から青に変えたら犯罪が激減した」と報じたことが始まりのようです。

ですが、後に犯罪心理学者が現地を取材してみると青色の光のせいで、麻薬常習者の腕の静脈が見え難くなり注射が打てなくなったことで、麻薬関連犯罪が約40%減ったというものだったそうです。
犯罪そのものが青色の街灯により激減したわけではなかったのです。

街灯を青色に変えたのも、そもそもは景観改善のためによるもので、景観が良くなるとそれに伴い地域の防犯意識が高まり、防犯対策(監視カメラ設置など)が行われ、それが犯罪抑止へと繋がった、というのが真相のようです。

こちらで詳しく説明されています。
  また、上記リンク先で紹介されている実証研究のレポートも公開されています。


やはり街灯を変えればそれだけで犯罪発生件数が低下する、なんてお手軽な話ではないんですね。
視認性という意味では青色街灯は良くありませんので、場合によっては逆に死角が生まれることになります。

地域住民の「意識」と、都市設計の段階で「死角」を潰す環境作りを徹底するのが一番有効なのだろうと感じます。