対北朝鮮ビラ禁止法、効果的な情報流入方法ではないから禁止しても問題ない、とする話

対北ビラ禁止法について、一部の欧州の国でも懸念が表明されています。
そんな中、韓国統一部は「表現の自由の核となる『内容』についてではなく、国民の生命・安全保護のために特定の表現『方式』を最小限に制限するものであるという点」「第三国においては適用の対象ではない点」を在外公館を通じて国際社会に向けて説明しているとのことです。

韓国国内法ですから第三国では適用されないというのは当然の事として、「表現方式」が何を指しているのかはよく分かりませんでした。
ですがこうした対北ビラ禁止法を正当化する広報の過程で、米国のNGO団体の会長がVOAとのインタビューで語った内容の一部を、話した本人の意図に反した意味に受け取れるように都合よく切り取り引用していたようです。


アジア経済の記事からです。

対北ビラ批判、我田引水の統一部「国際社会との疎通をさらに強化」

(前略)

米国非営利団体の米国民主主義振興財団(NED)のカール・ガッシュマン会長は「対北ビラ活動と関連した私のマスコミインタビュー内容を韓国統一部が誤って使用しており、これに失望した」と22日(現地時間)、自由アジア放送(RFA)とのインタビューで述べた。

統一部はこれに先立ち15日に配布した「南北関係発展に関する法律改正説明資料」で「対北ビラ散布が北韓人権を改善したという証拠はない」と主張した。また、対北ビラは北韓当局の社会統制を強化させ、北韓住民の人権を悪化させる逆効果を生み、北韓住民の知る権利を保障しないと主張した。
統一部はこのような主張の根拠としてガッシュマン会長の発言を引用した。統一部はガッシュマンNED会長もボイス・オブ・アメリカVOA)放送のインタビューで北韓へのビラ散布は効果的な情報流入方法ではない、と明らかにしている」と伝えた。
これについてガッシュマン会長は自身のインタビューを誤用したものという立場だ。統一部が対北ビラ禁止の妥当性を主張するために自分の言及を任意で用いたということだ。

アジア経済「대북전단 비판 아전인수 통일부 "국제사회와 소통 더욱 강화"(対北ビラ批判、我田引水の統一部「国際社会との疎通をさらに強化)」より一部抜粋


ガッシュマン会長のVOAとのインタビューは次のようになっています。6月にビラ散布を行っていた脱北団体が処罰を受けた件についてです。該当箇所のみ抜粋します。

記者)韓国政府が対北ビラを散布した脱北者団体2か所を警察に捜査依頼し、設立許可取り消しの手続きに入りました。適切な措置と見ますか?

ガッシュマン会長) 非常に残念です。北韓が韓国を苦しめることができるよう韓国が対応しました。韓国が北韓をなだめることは平和を図るどころか韓国の民主主義と表現の自由を損傷させるだけです。非常に残念です。

記者)韓国統一部は「軍事的緊張を引き起こし、住民の生命と身体に脅威を与える行為に対しては、表現の自由すら最小限の範囲内で制限される」と述べました。2016年に韓国の最高裁の判決もあります。

ガッシュマン会長) 独裁者たちは刺激を受ければ常に威嚇します。ある時は内部の団結のために外部に敵をわざわざ作ったりもします。そして韓半島の平和に対する最大の脅威は、北韓へのビラではなく北韓核兵器です。対北ビラが脅威だというのはとんでもない話です。

(中略)

記者) 米国民主主義振興財団は過去4年間、北韓人権団体に1千100万ドルを支援しています。ビラ散布団体への支援もありましたか?

ガッシュマン会長) 支援したことはありません。北韓へのビラ散布が効果的な情報流入方法だと考えていないためです。より効果的で確実に住民たちにアプローチする方法があります。対北への情報流入は非常に高度化しました。民主主義振興財団は最も効果的でベストな方法を支援しています。


VOA「NED 회장 "대북전단 금지 유감...효과적인 정보유입 방법은아냐"(NED会長「対北ビラ禁止残念...効果的な情報流入の方法ではない)」より一部抜粋


「非常に残念です」と二度言っています。大事なことだったんでしょう。

確かにガッシュマン会長は「効果的な情報流入方法ではないので支援したことはない」と述べています。が、「これによって北の社会統制が強化された」とは言っていません。逆にビラの危険性を否定しており、大前提として彼が対北ビラ禁止法に批判的な立場なのは読めば明らかです。

韓国政府は「情報流入効率が悪いビラを禁止したところで、北の住民の知る権利を阻害することにはならない」ということが言いたいのだと思います。つまり情報の受け手側の権利の話です。そして「情報流入の効率が悪い」という部分を示すためにガッシュマン会長の発言を引用したのでしょう。

ところが、そもそものガッシュマン会長は対北ビラ禁止には批判的です。VOAへのインタビューでも問題はそっちではなく表現の自由、つまり情報の発信側の権利です。例え情報流入として効率が悪かったとしても、それを「韓国政府が制限する」ということを問題視しているわけです。

情報流入の効率性と知る権利の阻害と表現の自由の侵害は全く別の問題として分けて考えるべき、ということでしょう。